弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年2月17日

宇宙が始まる前には何があったのか?

宇宙


著者  ローレンス・クラウス 、 出版  文芸春秋

 何もないところから何かが生じることはない。しかし、この常識は宇宙では通用しない。重力と量子力学のダイナミクスを考慮すると、常識はくつがえってしまう。それこそが科学の素晴らしいところ。私たちが目にするものすべてを、空っぽの空間から作り出すことが可能なのだ。
 この本で語られていることは、何年、何十年、何百年というものではなく、2兆年とか、まさしく気が遠くなりすぎるほどの次元の話です。もちろん、地球はおろか太陽だって50億年という寿命がとっくに尽きてしまっている先の話です。
 まあ、たまには、そんな雄大な宇宙の話に耳を傾け、目を見開いてもいいのではありませんか・・・。
私たちの身体を構成している原子のほとんどすべては、かつて爆発した星の内部に存在していたもの。私たちは、みな、文字どおり、星の子どもたちなのだ。私たちの身体は星屑(ほしくず)で出来ている。
光速より早く動くものはない。これが私たちの常識。しかし・・・。
 量子力学によれば、高い精度で粒子の運動速度を測定することができないほど短い時間ならば、その粒子は光よりも早い速度で動いてもかまわないということが示唆される。そして、もしも光より速い速度で動いているとしたら、アインシュタインによれば、その粒子は時間を逆行しているように振る舞うはずなのだ。
 なんということでしょうか。光速より早いと言うことは、時間を逆行することになるだなんて・・・。
アインシュタインが一般相対性理論を提唱したのは、わずか100年前のこと。そのころ、宇宙は永遠不変というのが世の中の常識だった。
 現代は、宇宙は膨張していることを知り、暗黒物質が宇宙にあることを知っている。空っぽのように見える空間エネルギーが含まれていて、それが宇宙の膨張を支配している。
 観測可能な宇宙は、これからどんどん光速より大きな速度で膨脹していく。つまり、未来になればなるほど、見えるものは減っていく。いま見えている銀河は、未来のある時点で、私たちからの後退速度が光速をこえ、それ以降は見えなくなる。その銀河は、地平線の彼方に消えてしまうのだ。
 これから、2兆年たつと、一部の銀河を除いて、すべての天体が文字どおり姿を消してしまう。つまり、今日、私たちの観測可能な宇宙にちりばめられている4000億の銀河は、すべて姿を消している。
 私たちの太陽は銀河系の辺境にある平凡な星の一つにすぎない。そして、銀河系は観測可能な宇宙にちりばめられている4000億個もの銀河の一つにすぎない。
 宇宙では、きわめて高い信頼度で、無から何かが生じることはありうる。
 空っぽの空間にもエネルギーが存在することが発見された。つまり、実は、空っぽの空間というのも複雑なものだった。適切な条件の下では、何もないところから何かが生じることは可能であるばかりか、必然だということ。
 高温・高密度のビッグバンの時期には、もともと物質と反物質とが同じだけ存在していたのだが、ある量子的なプロセスにより、物質の法が反物質よりもわずかに多くなるという小さな非対称性が生じた。そのおかげで、何もないところから、何かが生じた。それが、今日の宇宙にみられる星や銀河になっていた。
この本を読んで理解できたなんて思っていませんが、宇宙の始まる前には何があったのか、宇宙に終わりがあるのかという問いかけに対する答えの一つだと思い、最後まで興味深く読みとおしました。
(2014年2月刊。1600円+税)

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