弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年12月 7日

祈りの幕が下りる時

社会


著者  東野 圭吾 、 出版  講談社

うむむ、うまいですね。いつものことながら、ストーリー展開が実に見事なので、終わりまで次の頁をめくるのがもどかしくなるほど、息を継がせない面白さです。伏線が次々にはられていきます。いったい、この話とあの話は、どうやって結びつくのだろうか、それとも両者は結びつかない話なのだろうか。そんな疑問を抱かせ、いろんなストーリーが順次展開していきます。
推理小説なのでネタ晴らしはルール違反となるので、やめておきます。と言いつつ、少しだけ・・・。
子どもが転校するとき、親が事件を起こしたあとだったら、当然、同じクラスだった人間には、何らかの記憶が残るものだ。
 ふむふむ、なるほど、そうなんですよね。
 ところが、いつのまにかその子は転校していったという。そして、誰も事件のことを覚えていない。むむむ、なにかおかしいぞ。
 こんな仕掛けがあります。言われてみれば、なるほど、そのとおりです。ナゾ解きというのは、いかにもあり得るものでないと納得できませんよね。
 もう一つ。実は、この話には原発労働者のことが登場します。福島第一原発事故について、安倍首相は「終息宣言」を撤回するどころか、「完全にコントロールできている」なんて、真っ赤な大嘘を高言して国会を放り出して、トルコまで原発を売り出しに行ってきました。その無責任さもきわまれり、です。しかも、武器の製造・開発まで一緒にしようというのですから許せません。
 原発労働の実態については、私も実際に働いていた人から話を聞いたことがありますが、完全装備で雑巾がけをしているようなものなんですね。そして、完全防備で苦しいから、いい加減に扱っていたり、線量計を貸し借りしたり・・・。実に前近代的な労働現場のようです。ですから、そこで働いている人々には早死にする人が多いということです。
 話が脇道にそれてしまいましたが、緊迫したストーリーです。読んでいるうちに、松本清張の『砂の器』を思い出してしまいました。
(2013年9月刊。1700円+税)

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