弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年11月17日

どっこい大田の工匠たち

社会

著者  小関 智弘 、 出版  現代書館

日本のモノづくりも、まだまだ捨てたものではない。そう実感させてくれる心温まる本です。
 著者自身が大田の町工場で永く旋盤工として働いてきましたので、匠(たくみ)たちを見る目にはとても温かいものがあります。著者の本はかなり読みましたが、最新作のこれもおすすめです。
 大田区には自転車でひとまわりすれば、たいていの仕事ができるほど多様な技術をもった町工場がある。そこで、自転車ネットワークとか、路地裏ネットワークと呼ばれるネットワークが可能な町である。
たとえば、安久工機は従業員6人の町工場。ここで、視覚障がい者が指先でさわって「見る」ことができる絵を描ける触図筆ペンをつくって売り出している。
 全盲の子どもたちに、絵を描かせたり、絵のタッチを理解させることのできるペンだ。当初20万円したが、今では10万円で市販されている。すごいですね。かなり苦労したようですが、不可能を可能にする人間の知恵がうまく生きています。
 大田区の町工場がつくった「下町ボブスレー」は無償でつくりあげたものだが、全日本選手権試合(女子二人乗り)で、優勝した。
 大田区の町工場には、「菓子折りつきの仕事」というものがある。なんとか頼みますよと、菓子折りをつけて頼み込む。だから、技術的には難しいが、工賃は高い。そして、町工場は、時のたつのも忘れて仕事にのめり込んでしまう。
町工場の工場主(おやじ)さんたちのあいだには、「息子が後を継いでくれて良かった」派と、「息子に後を継がせなくて良かった」派の二つがある。そうなんでしょうね。みんながみんな生き残れるほど、きっと世の中は甘くないでしょうから・・・。
 町工場の技術は、ちょっと見学したりビデオで見たからといって、すぐに真似られるものではない。だから見学も、ビデオ撮影もOKという町工場があるそうです。驚きました。
町工場を生きるということは、理不尽を生きるということでもある。
いいですよね・・・。ここに登場する職人さんたちの話を聞いていると、なるほど努力と工夫で人間(ひと)は生き延びていけるものだと痛感します。
(2013年10月刊。2000円+税)

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