弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年7月 2日

秘録・核スクープの裏側

社会

著者  太田 明克 、 出版  講談社

外務省トップの事務次官・駐米大使を歴任した村田良平は回顧録のなかで、アメリカ軍の核搭載艦船の通過・寄港を日米事前地議の対象外とする日米間の「秘密の了解」つまり密約があることを明言した。さらに、「事前地議」のない限り核の持ち込みはない」としてきた歴代・自民党政府の国会答弁は「虚偽」だったと告白した。
 1963年3月。ケネディ大統領に対して、海軍ナンバー2は次のように報告した。
 「1950年初期から日本に寄港した航空母艦にはいつも核兵器が搭載されている。太平洋に展開する空母機動部隊を構成する駆遂艦や巡洋艦も同様に核装備している」
 核が日本の港や領海に持ち込まれていたのは明らか。なのに、自民党の歴代政権は「事前地議の申し出がアメリカ側からない限り、いかなる核の持ち込みもない」とのウソをつき続けた。
 安保条約が改正される前の旧日米安保条約の下では、アメリカが日本に核兵器を持ち込むことに何の制約もなかった。アメリカ軍の核搭載空母オリスカニが1953年秋に初めて横須賀に寄港したのを初めとして、1950~1960年代にかけて核搭載艦船の日本寄港は常態化していた。
 この核密約は、まぎれもなく官僚主導で管理・継承されてきた。外務省が信頼して真相を報告していた首相・外務相は限られていた。橋本龍太郎・小渕恵三は報告を受けていた。
核巡航トマホークは、あまり信頼性のおける兵器ではなかった。トマホークの複雑な誘導システムには問題があったが、GPSを使ったトマホークもいくつか軌道をはずれた。
 アメリカは敵国のジャミング(通信妨害)を恐れて、核攻撃時にはGPS機能を使わないことにしている。だから、太平洋や日本海に展開するアメリカの攻撃型潜水艦から核巡航トマホークが発射されたとき、いくつかが日本や韓国に間違って打ち込まれる事態もありうる。これは笑い話ではない。
 2013年3月時点で、アメリカが保有する作戦に作用可能な核弾頭5000発のうち、長距離型の戦略核は1737発。短距離型の戦術核200発と配備されていない予備用がある。ロシアの方は1492発の戦略核と、2000発の戦術核を保有している。中国の核戦力は240発。
沖縄に初めて核兵器が搬入されたのは1954年末から1955年初頭にかけて。沖縄に貯蔵された核兵器は多種多様だった。18種類もの核兵器が1972年の本土復帰まで配備されていた。
 1967年段階で、アジア太平洋地域にアメリカは3200発もの核兵器を陸上で貯蔵していた。沖縄には、その3分の11300発があった。韓国に900発、グアムに500発だった。
日本の歴代政治指導者とそれを支える官僚組織は、みずからの核保有オプションをあきらめ、その代わりに同盟の盟主であるアメリカの核戦力に国防の根幹を委ねる国策をとり、「核の傘」を、しぶしぶと言うよりは、能動的かつ主体的に受け入れてきた。
 核密約問題の底流には、核兵器の所有者はあくまでアメリカだが、世界唯一の戦争被爆体験をもつ日本が、盟主の「核パワー」と核抑止力論を前提とした国防政策にどっぷり漬かり続けてきた。日米は軍事的な意味あいにおいて、まずまぎれもない「核の同盟」なのである。
 共同通信記者として長年にわたって取材してきた執念を感じることができました。
(2013年4月刊。1700円+税)

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