弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年6月 4日

タックス・ヘイブン

社会

著者  志賀 櫻 、 出版  岩波新書

読んでいるうちに大いに腹の立つ本です。いえ、著者に対する怒りではありません。こんなデタラメな税制を許している国家とそれをうまく利用している超大企業とスーパーリッチたちに対して、です。日本には年間所得が1億円をこえる人が、確か10万人以上いたと思います。そんな人たちにとって、日本は本当に「いい国」です。所得税の税率が1億円をこえると低下していくからです。
 1億円の税率28.3%をピークとして、低下していき、100億円だと、なんと13.5%でしかない。思わず、目を疑う低率です。
  40億円以上の純資産をもつ富裕層は、1位がアメリカで3万8000人、2位は中国で4700人、3位はドイツで4000人、4位は日本で3400人。
 うひゃあ、40億円以上の資産をもつスーパーリッチ層が日本に3400人もいるんですね・・・・。
タックス・ヘイブンとは、税金がほとんどない国のこと。ケイマン諸島、バハマ、バミューダ、ブリティッシュ・バージン・アイランドなど。
 タックス・ヘイブン退治の先頭に立つはずの先進国が、実は最大のタックス・ヘイブンでもある。その筆頭がロンドンのシティだ。また、アメリカのデラウェア州のウィルミントンである。
 強い経済の背景には必ず部厚い中間所得層が存在する。貧富の差が激しく、二極分化した社会には、強い経済は望めない。
 世界中の金融システムは複雑かつ密接につながっている。誰がどのようなリスクを保有しているかは分からないが、誰かが破綻すれば、連鎖破綻が起きて、その影響は瞬時に国境を越えて世界に拡がる。世界が保有しているリスクは、むしろ増大している。今や世界は一つにつながっている。文字どおりグローバル・エコノミーである。
 ヘッジ・ファンドは世界経済にダメージを与える存在であり、有害である。ヘッジ・ファンドに危険なマネー・ゲームをさせるべきではない。
 ヘッジ・ファンドがしていることは、マネー・ゲームに狂奔して巨額の資金を動かし、世界経済に深刻な危機をもたらすこと。ヘッジ・ファンドのもたらす害悪は圧倒的に大きい。
 ヘッジ・ファンドに活動の場を与えるタックス・ヘイブンの罪もまた大きい。
 マネー・ゲームという悪事に加担している点からすれば、ロンドンとニューヨークの方が、よほどたちが悪い。
 いまの日本には、アベノミクスとやらに踊らされて株を買っている人が続出しています。しかし、やがて、ドンと株価は低迷するでしょう。そのとき泣くのは、騙された一般投資家のみ。
投機マネーは規制すべきだと著者は強調しています。本当にそのとおりです。
 アベノミクスなんかに騙されないようにしましょうよ。私と同じ団塊世代の著者による勇気ある警世の書です。
(2013年3月刊。760円+税)

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