弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年3月13日

なぜ、世界はルワンダを救えなかったのか

アメリカ

著者  ロメオ・ダレール 、 出版  風行社

 著者はカナダの軍人として、ルワンダに駐留していました。
 運命に委ねられ、なぶり殺しにされた何十万ものルワンダの人々に捧ぐ。
 この本のはじめに書かれている言葉です。なるほど、目の前で無数の罪なき人々が当局に煽動されて暴徒化した人々によって虐殺されていくとき、精神がおかしくならないはずはないでしょうね。
 そして、著者はこの本を「私の命令に従って平和と人間性のために勇敢に死んでいった15人の国連軍兵士に捧」げています。著者はルワンダから帰国したあと、外傷後ストレス障害(PTSD)にかかったのです。
 1994年にルワンダに起きたこと。裏切り、失敗、愚直、無関心、憎悪、ジェノサイド、戦争、非人間性、そして悪に関する物語だ。
 カナダに帰国してから気力、精気を取り戻すまで7年も要した。
 アメリカ、フランス、イギリスなどの国は何もせず、すべてが起こるのをただ傍観していた。部隊を引き上げる、そもそも最初からまったく部隊を派遣しなかった。
 ラジオは、聴衆にツチ族を殺すように呼びかけ、穏健派のフツ族の死を求め、彼らを裏切り者と呼んだ。この声明は、人気歌手の録音された音楽とともに流された。その音楽は「フツが嫌いだ。フツは嫌いだ。ツチを蛇だと思っていないフツは嫌いだ」といった歌詞で、暴力を煽りたてるものだった。
 マスコミを握って煽動すると、フツーの人々が鉈(マチェーテ)をもって人を簡単に殺すようになるのですね・・・。これは日本だって決して他人事(ひとごと)ではありません。
 マスコミの一致した消費税増税、TPP参加、比例定数削減キャンペーンは本質的には同じようなものではありませんか。生活保護バッシングにしても同じです。怖いです。
 どの国連機関のある敷地にも、恐怖にかられたルワンダ人が何千人も囚われていた。虐殺は自然発生的な行為ではなかった。それは、軍・憲兵隊、インテラハムウェ、そして公務員を巻き込んで周到に実行されたものだった。
 ルワンダで金もうけし、多くのルワンダ人を召使いや労働者として雇ってきた白人が、彼らを見捨てた。そこには自己利益と自己保存があった。
 アメリカ、フランス、イギリスに率いられたこの世界がルワンダでのジェノサイドに手を貸し、そそのかした。いくら現金と援助を積んでも、決してこれらの国の手に染みついたルワンダの血は落とせない。
 これは痛切な叫びです。厳しく「人道的」大国を糾弾しています。ルワンダに天然資源があったら、これらの国も、もっと真剣に軍隊を派遣していたことでしょう・・・。
 アメリカ(ペンタゴン)の判断は、ジェノサイドによって、1日に8000人から1万人のルワンダ人が殺されていても、その生命には高い燃料代を払ったり、ルワンダの電波を妨害したりするほどの価値はないということだ。
死者の数は4月来に20万人と見積もられていたのが、5月には50万人となり、6月末には80万人に達した。
 ルワンダのネズミは今やテリアと同じサイズにまで肥大化した。ネズミは無尽蔵に供給される人間を食べたり、信じられないサイズにまで成長したのだ。
 飢えた子どもたちは生のトウモロコシを食べた。ごつごつした粒は、子どもたちの消化器官を傷つけ、内出血を起こした。子どもたちは、それが原因で腸から出血して死んでいった。
 誰もがジェノサイドで誰かを亡くしていた。紛争前の人口の10%近くが100日間に殺害された。少なくとも1人も家族を失わなかった家族はほとんどなかった。ほとんどの家族がもっと多くの人を失った。
ルワンダで生き残った90%の子どもたちは、この期間に自分の知っている人間が暴力的な死を迎えるのを目の当たりにしたと推定されている。
 ルワンダの悲劇をくりかえしてはならないと思いました。それにしてもアメリカ、イギリス、フランスの御都合主義な「人道支援」には、言うべき言葉もありません。
          (2012年8月刊。2100円+税)

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