弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年3月 8日

東電OL事件

司法

著者  読売新聞社会部 、 出版  中央公論新社

1997年3月、東京電力の総合職社員(女性、39歳)が渋谷の円山町で殺害された。犯人としてネパールから日本へ出稼ぎに来ていたゴビンダが逮捕され一審の東京地裁は無罪としたものの、2審は逆転有罪そして最高裁も有罪判決を維持して確定した。2003年11月のこと。
ゴビンダ受刑者は再審請求したが、その手がかりとなったのがDNA鑑定。
 1997年は、DNA鑑定の過渡期だった。鑑定の精度は上がってきていたが、今のようにコンピューターでDNA型の判定はできず、肉眼で判定していた。
 DNA鑑定技術は、1989年には、別人と一致する確率は200人に1人だった。
 1996年には、PM型検査によって2万3000人に1人と精度が上昇した。
 2003年に、STR型検査法によって1100万人に1人と、飛躍的に精度が向上した。
 2006年には、STR検査法がさらに、それまでの9ヶ所から15ヶ所のDNA配列を調べるSTR型検査法に変更されて、4兆7000億人に1人となった。これではほとんど100%の精度である。このように刑事事件におけるDNA鑑定の歴史は、まだ30年足らずしかないが、この30年で飛躍的に精度が高まった。
 被害者は、手帳に売春相手の使命、会った時間、受けとった金額などを克明に記録していた。いかにも日本人ですね。なんでも記録するのですよね。
 ネパール人は、正規ルートで海外に出稼ぎに出ている人だけで230万人。把握できる人だけでも全人口の10人に1人近くが海外で働いていることになる。9割以上が、カタール、UAE、クウェートなど、オイルマネーに沸く中東地域やマレーシアにいる。収入は日本円にして1~2万円。それでもネパールにいるときよりははるかに大きい。若者による出稼ぎは、ネパール経済を支える主力産業だ。
 再審の扉をこじあけて無罪となったゴビンダは、今、ネパールの自宅で家族と生活をともにしています。それにしても15年間も獄中にいたわけです。
最新のDNA鑑定の威力とあわせて、それまでの精度の低さに改めて驚嘆させられました。
(2012年11月刊。1400円+税)

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