弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年2月26日

ルポ・子どもの貧困連鎖

社会

著者  保坂渉・池谷孝司 、 出版  光文社

日本の子どもたちが、今、大切にされていないことが明らかにされています。安倍政権は教育改革と言っていますが、ここにこそ光をあてるべきだと思います。でも、やっていること、やろうとしていることは差別の拡大です。残念です。
文科省によると、高校の奨学金受給者は2007年度に15万2000人だったのが、2009年度は予算ベースで17万2000人に増えた。
 不況で大都市圏を中心に定時制受験者が急増し、多数の不合格者が出ている。希望すれば入れるのが定時制だったのに、学校が統廃合で減った。定員を増やし、門戸を開いてほしい。学びの最後のセーフティーネットがほろび始めている。
 文科省によると、定時制高校は1997年度に907校だったのが、2009年度は732校に減った。ところが、不況とともに新卒の志願者は増え、1997年度の2万367人から2009年度は3万989人になった。
 この数年、不況の深刻化で全日制の公立高校を落ちても経済的な事情で私立高に進めず、定時制の公立高を志望する生徒が激増している。定員を増やしても受験で不合格者が出て問題化するほどになった。
 困窮している高校生のなかには定期代や教科書にも事欠く子が大勢いる。公立高の授業料が無償になったとはいえ、私費負担はまだ大きい。途中でやめる子も多い。高校の実質的な無償化が必要である。
 教員がなぜこんなに疲れているかというと、ありとあらゆることが指導の対象だから。日本では、「○○指導」と言えば、何でも教員の守備範囲とみなされる。清掃指導、給食指導、下校指導、校外指導、みな教員がやらなければならない。それが、一番根幹のはずの授業に割ける時間、エネルギーを奪っている。担い過ぎているものを代わりに担当する人を付けていく必要がある。部活の指導者や図書館司書もちゃんと手配する細かい対処が必要である。しかし、政府は、手厚い公教育の提供をサボってきた。
 もっと国が教育に費用を投入する必要がある。所得税の累進制を大きくしたり、相続税を大幅にアップしたりして、富裕層からの再分配を拡充すべきだ。
 1955年に廃止された失業対策事業をリニューアルして、もう一度やるべきだ。仕事を探しても全然ないとき、高い賃金ではないけれど、ここに来たら当座の働き口はあるという場を公的につくる必要がある。
 これについては、私も大賛成です。働ける人は、みんな働きたいのです。
問題のある子どもや家庭を支援していく教育ケア会議の対象となる子どもの6割が生活保護世帯、一人親家庭も入れると7割になる。
虐待ケースでは身体的な虐待にいく前のネグレクトで発見できる比率が高い。野宿している若者は、母子家庭と虐待が多い。母子家庭で生活保護を受けていて帰れないとか、暴力がひどくて家には死んでも帰れないと言う。親を頼れない若者が、どんどん貧困、野宿になっている。
一人親家族や非正規雇用の家庭・虐待家庭が増えていることに学校も苦労している。そうした子どもたちの多くは、社会のスタートラインから不利な立場に置かれる。学校の保健室は子どもたちの駆け込み寺のような存在だ。
学校によっては、7割の子が虫歯で4割は死力が低下している。お金がないので歯医者に行けず、眼鏡を買えないという家庭が少なくない。
 保健室を利用する小学生は2006年度には一校あたり1日41人で、これは2001年度より5人も増えている。相談内容のうち、心の悩みが41%にのぼる(9%増)。うつ病やそううつ病など、「気分障害」の患者は1999年に44万人だったが、2008年には104万人、2.4倍に急増した。
 一時保護は、児童相談所が虐待や非行などで緊急に収容の必要のある子どもや、養育者のいない子どもを保護する制度。対象は18歳未満で、全国に125ヶ所ある一時保護所に2ヵ月内をめどに入所させる。2008年度の受付件数は2万件ほど。
 かつては日本の子どもほど親に愛され、大切にされている子どもはいない、このように絶賛されていましたが、今では悲惨な状況に置かれているのですね。
 安倍首相の教育改革は、こんな実情に目をふさいで、国のいいなりになる強い子どもを育成しようというものです。とんでもない改革ですよね。
(2012年8月刊。1600円+税)

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