弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年12月19日

低線量汚染地域からの報告

ロシア

著者  馬場 朝子・山内 太郎 、 出版  NHK出版

チェルノブイリ、26年後の健康被害というサブタイトルがついています。福島第一原発から放散し、流れ出ていった莫大な放射性物質による健康被害がとても心配です。電力不足とか電気代を心配する前に、人間の生存それ自体が脅かされていること、そして、それが何万年も続いていくことの恐ろしさにもっと思いを致すべきではないでしょうか。
 1986年4月26日、チェルノブイリ原発4号炉が爆発したことによって、放射線を帯びた粒子90トンが外部に放出された。そして、事故から26年たった今でも1万平方キロメートルの立ち入り禁止区域が周辺に広がっている。それは、東京、神奈川、埼玉そして大阪をあわせたくらいの広さであり、その土地に暮らしていた40万人がふるさとを追われた。
 原発周辺の高汚染地域からの避難民のうち、慢性疾患をもつ人は1988年に31.5%だったのが、2008年には78.5%に増えた。
 がんの発症率は事故前に10万人あたり200人だったのが310人と、1.5倍に増えた。リンパ腫と白血病について、事故前に26症例だったのが255症例となった。
事故当時、青少年だった人たちが40歳までのグループに入り、2007年に9人、2008年は15人、2010年に17人、2011年には22人ががん疾病を有している。
 一番多く影響を受けているのが、1970年と1971年生まれの人々。つまり、事故当時、15歳、16歳だった人。活発な生殖成熟期に事故にあった人たちに、がん症例が多く認められる。甲状腺、白血病、乳腺などにがんを発症している。
 事故前には年に数例だった先天性障害のある子どもが、今では年に30人から40人も生まれている。
 甲状腺がんの罹患率が上がっている。チェルノブイリ事故前は、全世界において甲状腺がんは滅多にない疾病だった。今では、年間700症例が記録されている。事故当時、子どもや青少年であった人たちだ。26年たって、少し収まるどころか、増え続けているし、いつまで増え続けるのか、誰も予測できない。
 子どもたちの目から、1000人あたり234人の割合で水晶体に異常が見つかった。これは白内障の前段階だ。
 チェルノブイリ事故のあと、学校では、子どもたちが疲れやすいことから、45分の授業時間を低学年は10分、高学年は5分短縮している。そして、子どもの8割が何らかの病気をもっている。
 うひゃあ、そんな恐ろしいことが・・・。
 485人の生徒のうち48.2%に甲状腺などの内分泌疾患が見つかった。背骨が曲がっているとか、背中に異常がある肉体発育障害が22.1%、目の障害は19.2%、呼吸器官に障害のある子どもは6.7%、消化器疾患・神経疾患は5%・・・。
 この現実を前にしてでもなお、「原発推進」を叫ぶのでしょうか、信じられません。原子力発電所なるものは核兵器と同じで、つくってはいけないものだったのです。即時、脱原発です。
(2012年9月刊。1400円+税)

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