弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年12月 4日

中国共産党の支配と権力

中国

著者   鈴木 隆 、 出版   慶應義塾大学出版会 

 420頁もの本格的な中国共産党の研究所です。難しいばかりではありません。その置かれている厳しい現実がとても分かりやすく分析されています。現実の中国に行ってみると、まさに資本主義を謳歌しているとしか思えません。それでも、中国共産党が取りしきっていて、今でも毛沢東思想を崇拝する人が少なくないのです。本当に不思議な国です。
人口12億人で、中国共産党がどうやって大国を統治しているのが、その謎を解き明かそうという意気込みの感じられる本です。少なくとも私には、その意気込みと、たしかな答えを感じることができました。
 中国共産党は新社会層への党員リクルートを決断した。その最大の理由は、改革・開放以来の資本主義的発展に伴い、近年、政治・経済・社会の各方面において、これら新興エリート層の影響力が拡大していることがあげられる。私営企業家をはじめ、外資企業の管理職や技術職、弁護士、会計士などからなる新社会層の多くの職種は、工場労働者と農民を主体とする伝統的な計画経済システムの下では、原理的に存在しないか、または実態として存在しないに等しい集団であった。
 中国共産党は、2000年代に入って、新興エリート層への政治的接近を本格的に開始した。その目的は二つ。その一は、共産党の支配の正統性の中核をなす持続的な経済成長に資するべく、私営企業家などの非公有制経済セクターとの協調的な関係を持続・強化すること。もう一つは、新興の社会経済エリートが主導する組織的な反体制運動と、その政治的立場の拡大を抑制することである。
 中国共産党は、弁護士や会計士などの新社会階層を構成する特定の職能集団への組織工作を優先的に実行している。
 2000年代に入って以来、中国共産党は、イデオロギーと党建設の両面から、体制の問題処理能力の向上に努めている。宣伝部のイデオロギー統制は、過去に比べて相対的に弱化しているにもかかわらず、組織部の力量は、各種の人事統制を通して、近年むしろ強化されている。今日、中国共産党は、衰退と適応の並存状態にある。
 習近平・中央政治局常務委員(当時)は業界の規模が比較的に大きく、業務の主管部門が明確で、活動の基礎が比較的に良好な弁護士や会計士などの職業を突破口として、新社会階層を主な対象として、末端レベルでの党建設の強化・推進を指示していた。
 新社会階層、とくに都市に社会経済生活の基盤を有する私営企業家の入党によって、農村部に対する都市部の政治的地位の相対的な上昇と、基層の政治社会における権力関係の変動という二重の不安がみて取れる。このような新社会階層の入党に対する批判的な意識は、今日でも中国共産党党内に根強く存在する。
 私営企業家の党員の人数は適切にコントロールしなければならない。党組織が私営企業家の従属物や道具となったり、党内に特殊な利益集団が形成されるのを防ぐ必要があるという考えも根強く存在する。
 浙江省では、当初874人だった企業家の入党志望者は、次々に選考対象から落選し、結局、実際に入党できたのは23人、2.6%にすぎなかった。
 2004年から2010年までの7年間に入党した新社会階層の党員は88万人。2010年時点は93万人に近くなっているが、これは党員総数の1.2%ほどを占めている。新社会階層の入党申請者は年1万人のベースである。ところで、毎年の新しい入党者の4~5割は、生産・工作現場の第一線の者で占められている。
 中国共産党の中央は、新参者たる新社会階層が、一定の量的規模と集団としてのまとまりの持つ存在感を党の内外に必要以上に誇示することのないように、慎重に適応していた。
市場経済化の進展は、非党員の者にとっても、経済的成功の獲得機会を増大させた。この結果、個々人の入党志望の度合いが相対的に低下し、とりわけ都市部での専門知識を有する高学歴、若年層に対する党員リクルートは、以前に比べて困難となった。
 中国共産党が、持続的な経済成長と新興エリート層重視の政治姿勢をすでに明確化している以上、非党員の新社会層としては、共産党への加入に積極的な意義を見出しにくい。共産党への入党以外にも非党員の新社会層が政治に参加する機会や経営が、これまでより拡大しているのも現実である。
 新社会階層への統一戦線活動重視の具体的なあらわれとして、統一戦線工作部長は党内で格上げされた。
 社会の多様化にともない、社会階層との権力関係をいかに処分していくのかが、党中央の重要課題となっている。
 中国共産党は、全国すべての弁護士・公認会計士事務所を細大もらさずに監視の下に置いた。弁護士と会計士の党員の比率はもともと相当に高かった。弁護士23.3%、弁護士と会計士に対する中国共産党の組織的統制力は、前にも比べて強化された。
 2010年の時点で、それら二つの職業人の3割が共産党員であり、その所属する法律事務所の7~8割に共産党支部がある。
 経済発展こそが、現地の県党委書記の最大の関心事だ。経済のノルマの達成が、当人の昇進と降格の主要な判断基準であることは、従来と変わられない。末端レベルの幹部たちは、上級党委員会からの絶え間ないノルマ達成の圧力に日常的にさらされている。
 中国共産党の内実が、とても鋭く分析されていると驚嘆し、勉強になりました。
(2012年7月刊。6800円+税)

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