弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年11月 9日

督促OL修行日記

社会


著者   榎本 まみ 、 出版   文芸春秋 

 ブラック企業で働かされているような辛い仕事も、長く続けると世の中と人間が見えてくるという話です。とてもしんどい話を面白く読ませてくれる本でした。
 サブタイトルに日本一つらい職場で生き抜く技術とあります。
 一日中、テレコールする。しかも、お金をもたない人を相手に、お金を支払えという電話をかけまくるのです。考えただけでも、いやな仕事ですよね。
 キャッシング専門の督促部署に配属された。1時間に少なくとも60本の電話をかける。
 体重が半年で10キロ減。ストレスが原因のニキビが火傷でもしたかのように顔じゅうにできた。
 毎月、誰かが職場を去っていく。心を病んでしまう人も多い。会社に行くことは、イコール怒鳴られに行くこと。
朝8時から電話をかけはじめる。そのためには朝7時に出社して準備を始める。夜9時すぎて電話をかけれなくなったら、今度は督促状を発送する作業が待っている。
 朝7時から夜11時まで会社に閉じこめられる。
入金の約束をした客が守る確率は6割。4割は約束を破る。
 恐怖心、義務感そして罪悪感の三つをうまく刺激して返済してもらう。そのためには約束の日時・場所・金額を相手の口から言ってもらうことが重要である。
 「お金を返して」と言うのではなく、「何日に払えるの?」と尋ねる。それとも、「いくらだったら払えるの?」と質問を変えてみる。これで、相手とのフンイキを悪くせずに入金の督促ができる。
 いきなり客に怒鳴られてビクッと体が固まったら、その瞬間、思いっきり足をつねる。もしくは、小指をもう一方の足で踏んでけるなどして、下半身を刺激する。痛いと感じると同時に、怒鳴られたショックによる金縛りは解ける。そこから客へ反撃することができる。
 足には本当の気分があらわれやすい。不安な人は足が落ち着かない。
ゴールデンタイムは、朝の8時と夜の8時台。
 怒っている客には、溜めずに発散させてやる。落ち着いたところで、入金の目途をきくとうまくいく。
 論理タイプの客から回収するためには、決してうえから督促しないこと。相手のプライドをみたすことが攻略のカギ。
 クレジットカードのコールセンターに所属するオペレーター300人は、朝、昼、夜のシフトで勤務し、1日4万件の電話をかける。回収するのは月170億円、年に2000億円。
 うひゃあ、す、すごい金額ですね。
オペレーターは、パートやアルバイトという非正規雇用で働いている。コールセンターの離職率は高く、30人が採用されても研修を終えるときに20人、配属されて2ヵ月で10人になる。
 一人で1日に200件から300件の電話をかける。どんなに理不尽な要求であっても、オペレーターは感情的に反論することは許されない。自分が悪くなくても謝らなければいけない。
 ゆっくりしゃべると、穏やかなフンイキで交渉することができる。
 督促やコールセンターの仕事は「感情労働」と呼ばれる。感情労働は、自分の感情を抑制することでお金を得る。「心を売る」と同じこと。代表的な感情労働として、航空機の客室乗務員と募金人がある。
 感情労働する人は、たとえ客に一方的に罵倒雑言を浴びせかけられたとしても、反論せず黙ってそれに耐え、相手のプライドを満たし満足させることを求められる。
 感情労働は、心の疲労の問題が深刻となる。感情労働による心の疲労は、一日寝たからといって解消される保証はない。こうして心に疲労を蓄積させた結果、感情労働をする人が心を痛む確率はほかの労働よりも高い。
 テレコール、とくに督促テレコールという非人間的労働を乗り切ったフツーの女の子の、たくましい体験記でした。人間の社会の現実を知る本として、興味深い内容になっています。
(2012年10月刊。1150円+税)

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