弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年10月31日

障害のある人と向き合う弁護

司法

著者   西村 武彦 、 出版   Sプランニング 

 大変勉強になりました。知的障害のある人、とりわけアスペルガー症候群の人に向きあうときに役に立つ本です。
障害は病気ではないし、克服すべき対象でもない。障害は、その人の個性、特性の一つだ。
弁護士は親が付き添っていても、知的障害者自身から話を聞き出すべきだ。
 「どうして、私に質問してくれないのですか?私の言うことは信用できないからですか?私のことなのに、私では決められないのですか?」と、本人は心の中で叫んでいる・・・。
 本人と話をすれば、知的障害者がどういう人なのか、どういう問題があるのか、その回答のなかで理解できる。こういう質問だと質問の趣旨を理解できないのか、こういう言葉は理解できないのかこういう文字は読めないのか、こういう計算は無理なのか、そういうことを弁護士は理解できる。だから、同席している親や福祉関係の職員の説明を先に聞くのは絶対に避けるべきだ。
 知的障害のある人は、「自分は字が読めません」なんてことは、恥ずかしいから言わない。知的障害のある人は、「いいえ」「分かりません」とは、なかなか言わない。
 IQの数値は、その人の人格を測定したものではない。IQという概念は、子どもに最適の教育・療育を施すために、その子どもの抱えている問題を教育関係者が理解するための共通の目盛りである。
なぜ知的障害のある人が借金するかと言えば、そのほとんどのケースは、本人以外の誰かのせいである。
弁護士の言葉のつかい方になじめるような知的障害のある人はいない。客観的な情報で対応が可能なのであれば、知的障害のある人に難しいことを訊く必要はない。そして、楽しかったこと、うれしかったことは何ですかと訊くようにしている。
 知的障害のある人については、フレンドリーな関係を形成しないと、大事な話は聞き出せない。そして、もっと大切なことは、馬鹿にしたそぶりを見せないこと。「えっ、分からないの?」というのは、完璧に馬鹿扱いした言葉。「えっ、なんて言ったの?もう一回言って」というのも、注意したほうがいい。
 次に、難しい言葉は一切つかわないこと。アスペルガー症候群の人を、この本ではアスピィと呼んでいます。
 エジソン、アインシュタインがアスピィを代表するエリート。アスピィのなかには、場の雰囲気が読めないという特徴をもつ人がいる。臨機応変が苦手。相手の気持ちを考えるのが苦手な人がいる。
 アスピィは、相手の意志や気持ちを理解するのが得意でないだけではなく、自分の苦悩、怒り、悩みについても、自分自身が的確に把握できていない。
弁護士にとって大いに考えさせられ、実務的にも大変役に立つ貴重な本です。
(2008年3月刊。1000円+税)

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