弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年10月22日

ゴリラは語る

人間

著者   山極 寿一 、 出版   講談社  

 アフリカでゴリラとともに暮らし(?)て30年以上の山極(やまぎわ)博士のお話です。
ゴリラって、本当に人間(ひと)によく似ていますよね。なにより、アイコンタクトをつかっているのが驚きでした。
サルが目を合わせるのは威嚇するため。ところが、ゴリラは目をそらすと不満を示す。サルとちがってゴリラは、顔をのぞき込まれても視線をそらさず、目と目を合わせる。この「のぞきこみ行動」は、ゴリラの挨拶のひとつ。たがいに顔を近づけ、見つめあって挨拶するのが、ゴリラの流儀。そして、ゴリラ同士では会話も存在する。
 「ゥアゥ?」(フー・アー・ユー)は、問いかけ。とにかく速やかにこたえることが必要だ。
 「ウルウルウルウル」という高くてかわいい声は求愛の声。
好物のキイチゴを見つけると、うたうように声を発する。ハミング。
 「グコグコグコ」というのは笑い声。笑い声を出すのは、人間のほかは類人猿のみ。
 ゴリラは表情から判断するのが人間に比べて難しい。しかし、ゴリラは感情が目に表れる。うれしいときには、ゴリラの目は人間以上に光る。目の色が金色に変わる。
ゴリラは、一日に何度も、そして長く遊び続ける。レスリングや追いかけっこ、ターザンごっこ、お山の大将ごっこ、ヘビダンス。遊んでいる最中の出す「グコグコグコ」という笑い声は、「自分はいま楽しいんだよ」というのを相手に伝える手段。
 動物園に飼われているゴリラが交尾できなくなっているのは、同じ年ごろの子どもたちとたっぷり遊ぶ経験をもたないから。
 ゴリラのオスは、自動的には父親にはなれない。そこには母ゴリラの見事な子離れ戦略がある。母ゴリラは子どもが1歳になるまでは、子どもを片時も離さない。ところが、1歳を過ぎたあたりから、父親であるシルバーバックのそばに子どもを置いていくことがよくある。そうやって子どもが母親のもとを離れていけるように促す。子どもは母親から父親を紹介されてはじめて、父の存在を認め、頼りにするようになる。ゴリラのオスは、メスからも子どもからも認められないと、「父親」にはなれないようにできている。
 ゴリラのグループには、「核オス」と呼ぶリーダーのシルバーバックこそいるが、オスの間に序列はない。だからゴリラは、たとえ争いを起こしても、力の強さや年齢や性別によって負けることがない。勝者も敗者もつくらない。
 大人のゴリラがケンカをすると、子どもや若者たちが引き離して止める。
 サルは、ケンカが始まると、群れのほかのメンバーはどちらかに加勢してはっきり勝負をつける。しかし、ゴリラは、むしろ仲裁を期待している。納得していないことを示すために戦う姿勢は見せる。しかし、仲裁が入ると、それ以上は争わない。
となると、人間よりゴリラは、よほど徹底した平和主義者ですね。人間は見習うべきです。人が住んでもいない領土をめぐって戦争をけしかけるなんて、「賢い」人間のすることではありませんよね。大変わかりやすい、いい本です。
(2012年8月刊。1000円+税)

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