弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年10月19日

えん罪原因を調査せよ

司法

著者   日弁連えん罪原因研究・WG 、 出版   勁草書房 

 なぜ、えん罪がなくならないのか、えん罪はどうやってつくられていくのか、裁判官が見抜けないのはなぜなのか、弁護人はいったい何をしているのか・・・。次々に湧いてくる疑問に答えてくれる本です。
 映画『それでも、ボクはやっていない』をつくった周防正行監督は、3年間で200回ほど裁判を傍聴したそうです。すごいですよね。そして今、法制審特別部会の委員になっています。
 警察や検察は、イギリスは1時間とか2時間の取調で起訴している。それでいいのか、と脅すように投げかける。そして、なぜ、そんなに治安の悪い国の司法制度を真似しようというのかと批判する。だけど、日本の治安がいいのは、決して日本の警察が優れているからではない。日本人の規範意識が高いからだ。
 マスコミは、よく「またも真相の解明はできなかった」と書くが、裁判は真相究明の場ではない。法廷に現れた証拠によって、被告人が有罪か無罪かを決める場である。大きな事件について真相の解明を求めるのなら、まったく違った機関で調べないと無理だ。
 このような周防監督の問題意識と同じようなところから、日弁連は独立した第三者機関をつくってえん罪の真相を究明することを提言しています。
 これまで日本で再審無罪となった事件では、短くて10年、長くて62年とか50年というものがある。最近、無罪となった布川(ふかわ)事件も、なんと44年かかっている。氷見(ひみ)事件の5年というのはもっとも短いもの。
 「やっただろう。認めろ」「いや違う」という不毛なやり取りと我慢くらべが続き、長時間の取調べがいつまで続くのか、明日も、明後日も、その後も続くのか、その不安から取調官に迎合して早く解放されたいと思うようになる。
 愛知県警察の取調マニュアルには、「調べ官の『絶対に落とす』という、自信と執念に満ちた気迫が必要である。調べ室に入ったら自供させるまで出るな。否認する被疑者は朝から晩まで調べ室に出して調べよ」とある。
 国連に提出した日本政府の報告書には、取調べを法律で一律に規律するのは難しいとしている。
 アメリカもEUも、ほとんどの加盟国では、弁護人の立会権を保障している。韓国も台湾も保障している。
 日弁連はえん罪の原因を究明する第三者機関も設置するように提言し、そのときの問題点も検討しています。
第三者機関については、国会の付置機関とするのが政策上妥協と思われる。というのは三権のうち、刑事司法機関と直接の指揮命令系統をもって関係しないのは、国会に限られるだろうから。
 アメリカでは、DNA鑑定によって、無実が明らかになって釈放された人は292人にのぼっている。1973年以降に、誤判が発覚して死刑台から生還した死刑囚が26州、140人にのぼっている。これが司法について深刻な反省を生む契機となった。
 そして、えん罪であることが分かった多くの事件で、死刑囚は、捜査段階で虚偽の自白をしていた。さらに、ビデオの前で自分の母親を殺害したと自白した無実の人さえいた。この自白はまったくの虚偽だった。
 やってもいない人が「自白」なんかするはずがない。これが世間一般のフツーの常識です。ところが、その常識が通用しない世界があるのです。警察そして検察が、その誤った体制を確固たるものにしています。
 私の畏友・小池振一郎弁護士より頼まれて買いました。なるほど、手抜き裁判はひどいものだ、でも、まだなくなっていないと思いました。
(2012年9月刊。2300円+税)

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