弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年9月 5日

路上の信仰

朝鮮(韓国)

著者   朴 炯圭 、 出版    新教出版社 

 激動の韓国現代史を生きたキリスト者の証言とオビに書かれていますが、この本を読むとまさしくそのとおりで、心の震えるほど感動していました。こんな気骨のあるキリスト教のリーダーがいたのですね。なにしろ、何回も警察に捕まっては刑務所に入れられ、教会堂での礼拝が当局に妨害されたら、なんと警察署前で6年間も路上礼拝を続けたというのです。まさしく信念の人です。信仰を実践し続けた不屈のキリスト者です。
 『世界』に連載されていた「韓国からの通信」の裏話も紹介されています。この「通信」は1973年から1988年まで15年にわたって続いたものです。KCIAがやっきになって犯人探しをして、妨害しようとしたのですが、果たせませんでした。
 著者の「TK生」が誰なのか、ずっと謎でした。これは、キリスト教のNCCKが金観錫牧師を中心として、徹底した安全対策を講じて資料を日本に送った。送ったのは主として宣教師ときに外交官郵袋や米軍の軍事郵便も利用した。これを日本で呉在植先生のところに集め、池明観教授が原稿をかいた。それを、『世界』の安江編集長が自らないし夫人によって書き写して植字工に渡した。並々ならぬ注意が払われたのですね。15年間、よくぞ続いたものです。
 王に直言し、民衆の堕落を告発し、またそのため、ときには犠牲を受けるのが旧約聖書の予言者の伝統である。キリスト教の牧師として監獄に行くのは、聖書からすると当然のこと。旧約の時代から予言者たちは絶えず監獄に出入りするのを当然のことと考えてきた。聖書の伝統は、キリスト教が何か哲学的、仏教的な空の思想というが、世を捨てて山中にこもり神秘境にひたるというか、脱世俗的な宗教ではなく、少なくともキリスト教の正しい伝統は世俗の中に入っていき、この世の問題に関与し、その時々に神の意を明かし、それに背くものに対しては直言する。そのような伝統がある。
 なーるほど、これはよく分かる話でした。
 韓国の民主化闘争の過程においてキリスト教を信じる人々の力は大きかったと改めて認識させられた本でした。
(2012年4月刊。2381円+税)

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