弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年7月13日

FBI秘録

アメリカ

著者   ロナルド・ケスラー 、 出版   原書房

 アメリカのFBIがどんな違法な活動をしているのか、興味があります。
司法公認の極秘侵入であり、住宅やオフィス、自動車、ヨット、飛行機そして大使館などに隠しマイクやビデオカメラを設置し、コンピュータや机の中を覗きまわった。
 極秘侵入の回数は年間400件にものぼる。その80%は、テロ事件や対敵諜報活動にかかわる国家安全保障問題が対象である。残りは、組織犯罪や知的犯罪、政治家の汚職事件などが対象になっている。
 嘱託を含めると1000人もの職員をかかえる作戦技術課には工学研究施設が含まれる。そこではFBI特注の盗聴装置や追跡装置、センサー、そして犯罪者を監視し、行動を記録できる監視カメラなどが作られている。
 FBIの捜査官1万4千人ほどのうち、20%が女性だ。捜査官は4つのグループに分けられる。現場をくまなく調査してコントロールする調査グループ。錠前を破り、金庫や郵便物を開けるメカニックグループ。コンピュータや携帯電話の取り扱いが専門のエレクトロニクスグループ。そして、開封と封印(フラップ・アンド・シール)グループである。このグループは、現場の回復も担当し、捜査官が侵入した痕跡を一切残さないよう気を配る。一回の作戦に100人以上の捜査官が関わることがある。
 極秘侵入では、捜査官の一人は、すべてが元通りになっていることを確認する責任を負う。現場に何ひとつ置き忘れてこないように、作戦中に使用する器具には、すべて番号と目印が付けられ、使用した捜査官を特定できるようになっている。
 隠しマイクや隠しカメラを設置するとき、人間の髪の毛ほど細さの光ファイバーで、音声や画像を送信することがある。そのため、盗聴器解除の専門家にも、電子の放出を検知されることはない。
 FBI長官をながくつとめたフーヴァーは、マフィアに目をつぶった。組織犯罪は、合衆国に対する唯一最大の犯罪的脅威であるという周知の事実をフーヴァーは否定し続けた。フーヴァーは、マフィアの構成員は地方のチンピラに過ぎず、全国犯罪組織には関与していないと主張した。
 きっとフーヴァーとマフィアはくされ縁があったのでしょうね。
 フーヴァーはトールソン副長官と切り離すことのできない仲だった。毎日、昼食をともにし、夕食もほとんど一緒にとった。いずれも独身を通した。これって要するに、二人ともゲイだったということですよね。先日のアメリカ映画も、そのことを強く示唆していました。
 フーヴァーとトールソンは、広い意味で夫婦同然の関係にあった。
 ところが、フーヴァーは、表向きでは、ゲイを口汚くののしっていたようです。それも自分の「弱点」を隠すためだったのでしょうね。
 ウォーターゲート事件について内部告発した「ディープ・スロート」が誰であるか、今では明らかになっています。フーヴァーの下にいたフェルト副長官でした。2005年にフェルト自身がディープ・スロートであることを告白したのです。
 映画『アメリカを売った男』の主人公であるFBI捜査官ロバート・ハンセンは、ロシアのスパイとして21年以上にわたって、ソ連そしてロシアに機密情報を売り渡していた。始まりは1979年のこと。ところで、このハンセンは、教会のオプス・デイという強硬な反共主義を唱える保守的団体に属していた。さらに、ハンセンはワシントンのスリップクラブで働く女性と親密な関係にあり、彼女にベンツや宝石を買い与え、香港に同伴していた。
あらゆる人間を蔑視していたハンセンは、とりわけFBIの女性職員を蔑視していた。ハンセンは、金銭的報酬以上に、FBIへの意識返しや、インテリジェンス・コミュニティーを出し抜くスリルや、支配権を手にした感覚を楽しんだ。ハンセンは2001年7月に保釈なしの終身刑を言い渡され、今もアメリカの刑務所にいる。
 ハンセンの妻は、今もなお妻であり、1980年ころから妻がソ連と取引していたのを知っていた。
 FBI捜査官について当局の承認を得て書かれた本です。その制約はありながら、よく実情が紹介されていると感心しながら読みすすめました。
(2012年3月刊。2200円+税)

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