弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年5月29日

どうなる!大阪の教育

社会

著者   池田 知隆 、 出版   フォーラム・A

 橋下・教育基本条例案を考える、というサブタイトルのついた薄いブックレットです。マンガ入りで、とても分かりやすい小冊子なので、多くの人にぜひ読んでほしいと思いました。
大阪の教師の疾病増加率は知事部局に比べて3倍も高い。学校の教師を生きづらくしているのは、同僚同士で話しあいながら学校を運営していくことができなくなっているから。
 校長は教職員の意見を聞くこともできず、通達だけが流れてくる。それをパソコンで見ている。職員会議には会話がない。こんなことで教師が育つはずがない。
 校長や副校長に体育系出身の教師が増えている。リベラルの人は教師になろうとしない。体育科の教師なので、他の教科のことが分からない。学力を伸ばすといってもどうしたらいいのか分からない。
 教育というのは人格のつきあい。学校の教師がやってくれることの最大のものは、子どもと付きあっていること。付きあいのなかで、その教師が自分の生き方とか、勉強の面白さを伝えながら、子どもは教師を批判したり、尊敬したりして人格がつくられていく。
 知事が替わるたびに好き勝手なことを言い、教育に介入されたら、学校教育は解体する。
 橋下の本には、友だちがほしいなんて思うな、大事なのは強いやつを見つけ、その下で生きることだと書かれている。うひゃあ、なんと悲しい言葉でしょうか・・・・。
 橋下は、「大阪を教育日本一に」と訴えながら、実際には3年間で教育予算を583億円も削った。できるだけ安あがりにしようというので、正規の教員を雇わず、非正規の教員を増やしている。
 橋下は、「教育は2万パーセント強制」という。しかし、アスリートが自覚的に負担をかける訓練をしているのと、望んでもいないことを強制されることには大きな違いがある。
 学力テスト成績結果を公開し、公立小中学校の選択制が実施されると、公立小中学校は激しい競争に追い込まれる。テストの成績で生徒を序列化し、落伍者は無価値な者と見下され、子どもの人格を歪めかねない。
 橋下・教育改革では、相対評価によって必ず「下位5%」の教師を指名し、それが2年続くと免職となる。
 すると、生徒指導の課題や悩みをかかえていても、他の教師に相談ができなくなる。他の教師も自分への評価が下がることを怖れて必死だから。教師が連帯して教育実践にあたるのではなく、互いに競争相手として追い落としあう職場環境になってしまう。生徒に媚びる教師を増やしかねない。悩みや課題をかかえた教師を横目に見ながら、それを放置していることが自己保身につながるという悪しき風潮が生じる恐れがある。学校のなかでみんなが協力しあい、学校全体で子どもを育てることがなくなってしまう。
校長は、自分が決めた目標の達成状況を基準に自分で教師を評価するから、主観的、恣意的な、つまり好き嫌いで人事評価することが可能となる。
校長にはマネジメント能力も必要だが、それだけで学校現場を統括するのは難しい。校長は教育サービスを支える店長ではないし、一人ひとりの子どもや教師と向きあうことが必要な教育職である。ただ管理統制能力があるだけで、教育の現場での対応はできない。
大阪の橋下市長を天まで高くもてはやすばかりの大手新聞、テレビには呆れかえります。 ジャーナリズムはもっと、橋下流インチキ政治の本質を暴いてほしいものです。
(2011年11月刊。571円+税)

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