弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年4月30日

子どもと保育が消えてゆく

社会

著者  川口 創  、 出版   かもがわ出版   

 名古屋で活躍している、子育て真最中の弁護士が日本の保育はこれでいいのかと、実体験をもとに鋭く問題提起しているブックレットです。
 わずか60頁ほどの薄いブックレットですが、日本の明日を背負う子どもたちを取り巻く、お寒い保育行政の現実を知ると、背筋がゾクゾクしてしまいます。
 コンクリートより人を、と叫んで誕生した民主政権でしたが、権力を握ったら、自公政権と同じく、コンクリート優先、福祉切り捨て政治を強行しています。悲しい現実です。
 いま政府がすすめている「幼保一体化」の看板の下で実施されるのは、保育所の解体のみ。「こども園」には、待機児童がもっとも深刻な3歳未満児の受け入れ義務を課さない。 それでは、3歳未満児は、どうなるのでしょうか・・・・?
 私の子どもたちがまだ幼いころは、全国各地で「ポストの数ほど保育所を」という合言葉のもとに保育所づくりの運動が広がっていました。
 1970年代には、年に800ヶ所を増設し、9万人の入所児増を実現した。保育所は2万3千ヶ所、在籍児200万人だった。ちころが、その後は自助努力が強調されるなかで保育所は減少していき、2000年には、2万2千ヶ所にまで減らされた。そして、2000年から2008年までの8年間に、全国で1772ヶ所の公立保育園が消えた(13.9%減)。
 厚労省によると、2011年4月の待機児童数は全国で2万5千人を超えている。
 日本の保育を、アメリカと同じように市場化し、「ビジネス・チャンス」にしようという狙いがある。
 女性が経済的に自立できるようにするためにも、公立保育所の拡充こそ必要です。安易に民間委託し、「ビジネス・チャンス」なんかとすべきではありません。
子どもたちにとっても、集団保育はとても有意義です。3歳児までは親の手もとでずっと面倒をみるべきだというのは、現実の日本社会の実情にもあわない主張です。私の3人の子どもたちはみな保育園に出し、そこでのびのび育ちました。社会人になった今でも、保育園当時の仲間とは親しく交流しています。親としても、たいへん喜ばしいことです。子どもにとって親の愛情とともに、友人と親しく交わることができるというのはなにより大切な財産です。
 「幼保一体化」でビジネス・チャンスをつくり出すだなんて、いったい政府は何を考えているのでしょうか。子育てを金もうけの機会にするというのはとんでもない間違いです。
 子育て、がんばってくださいね。大変でしょうが、楽しく充実した日々なのです。としをとって、あとで振り返ってみると、それを実感します。
(2011年10月刊。2800円+税)

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