弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年4月26日

サムスンの真実

朝鮮(韓国)

著者   金 勇澈 、 出版   バジリコ

 著者は私よりひとまわり年少の韓国の弁護士です。特捜部検事をつとめたあと、サムスンに入り、会長秘書室で7年間、財務チームと法務チームに所属し、裏金作りと賄賂渡しという汚れた仕事をしていました。そして、弁護士になって良心の告白をし、サムスンの不正を世に知らしめたのでした。ところが、いわば生命がけの告発も不発に終わり、サムスンは今もなお韓国政治を牛耳る巨大な存在として君臨しています。
 韓国法曹界に対する違法なロビー活動の実態には刮目せざるをえません。
 モチ代検事リストというのがある。賄賂をもらった検事たちの名簿である。
 ところが、サムスンから賄賂を受けとっていた公職者は失職するどころか、要職に就いていった。これはとくに今の李明博政権になって、さらにひどくなった。
 大韓民国は民主共和国ではなく、サムスン共和国である。
大韓民国の主権は1%の富裕層が握っており、法は1万人に対してのみ平等だと言われている。権力層に顔の広い大物の前では無力になるのが韓国社会だ。人々は何か問題が起きると、まず人脈を探して解決しようとする。原理、原則では、不可能なことも、人脈を使えば解決できるという後進的な文化がある。
 検察庁の部長は、後輩検事の捜査を督励するのではなく、上司の意向を尊重し、捜査を妨害する役職だ。そして、血気盛んな後輩たちを意のままに操る部長になるためには、スポンサーとなる後ろ盾が必要だ。ときには豪勢な場所で部下たちを飲み食いさせてこそ、本物の部長を言われる。
ある地域の判事、検事、弁護士はみな同窓生で、それを理由として普段から頻繁に酒席をともにしていた。弁護士は、判事と検事を盛大に接待するのが当たり前になっている。これは日本では、ありえないと弁護士歴40年になろうとする私は確信しています。
 相手方の弁護士を買収したり、担当裁判官を買収する。判事を買収するのは当たり前と思われている。だから、今回は我々サイドの判事だ、ところが相手サイドの判事に変わった、などという報告があがってくる。うひゃあ、日本ではそんな話を聞いたことがありません。もちろん、権力に弱い判事はいるのですが・・・。
 裏金はサムスンの系列会社でつくり出す。そして、借名口座で裏金を管理する。テーマパークの無料利用券や衣料商品券を現職の検事に渡したことがある。
 初めは、ちょっとしたものを贈る。これを受けとる鈍感が大きな不正へとつながっていく。慣れたら、結局、賄賂も受けとるようになる。たしかに、慣れは恐ろしいですよね。
公職者に一度お金を渡すと、ずっと渡し続けなければならない。後になってお金を渡すのをやめたら、相手は不快に思い始める。
 恥も数を重ねると、何とも思わなくなる。不正なお金を渡す側も、もらう側も同じだ。公職者がサムスンからはばかることなくお金をもらう背景には、サムスンのお金は安全、もらって危険がないと言う意識があった。彼に賄賂をもらって公職から追放されても、サムスンが職場を用意してくれる。
サムスンに不利な判決を下した判事は、私は反企業的な法曹人ですと宣言したも同然、反企業的な法律家だという噂が流れると、韓国社会の主流から一瞬のうちに排除される。うへーっ、そこまでなんですか・・・。
 今では、サムスンが、政府、司法、議会の上に君臨している。大統領といえども簡単には接することのできない巨大権力だ。
 サムスンの不正を告発した著者は、左翼共産主義者だと非難されたそうです。しかし、むしろサムスンこそ資本主義の市場経済体制を脅かしていると反論しています。まったく同感です。韓国の繁栄の裏側を鋭く告発した本だと思いました。
(2012年3月刊。1800円+税)

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