弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年4月23日

ヒトの見ている世界、蝶の見ている世界

生き物

著者   野島 智司 、 出版   青春新書

 視覚を通して人間と昆虫など他の生物との異同を考えている面白い本です。
 人間の視覚にとって、脳は非常に重要な役割を果たしている。脳の3分の1から2分の1の部位が、視覚情報の処理に費やされている。人間が大きな大脳をもっているのは、実のところ物を見るためと言って過言ではない。
実際には、網膜上に映った像をそのまま見ているのではなく、本来は見えていないはずの部分も推測で補ったり、あまり重要ではない情報はあえて意識しなかったりしている。
 ヒトは、自らの生活にとって必要な情報を瞬時に取捨選択している。
 昆虫の複眼は、ショウジョウバエという小さなハエで800、アゲハチョウは1万2千、トンボに至っては5万もの個眼から成っている。
 複眼には網膜がない。個眼全体が光ファイバーのようになっていて、一つの個眼に入ってきた光を、内部の視細胞層で受けとる。
 個眼には複数の視細胞が入っているが、その内部に像を結ぶわけではなく、個眼に入った光は内部の視細胞を一様に刺激する。したがって一つの個眼に入った光は、一つの情報いわばデジタルカメラの画素に相当する。
 もし、複眼の視力をヒトの視力に換算すると、0.1に満たない。ミツバチは、ヒトと同じ三原色で世界を見ているが、赤、緑、青の三色を感じる視細胞がなるのではなく、緑、青、紫外線の三色を感じる視細胞をもっている。だから、紫外線を感じることができる代わりに、赤を見ることができない。
 ミツバチやアリは、景色だけを頼りにしているわけではなく、方角を理解する能力がある。
 ミツバチやアリ、そして多くの昆虫が、偏光を見分けることができる。
 景色に目印の乏しい砂漠に住むアリは、偏光を使った方角と自分の歩いた歩幅を積算することで、現在地の巣からの相対的な位置を把握することが分かっている。
 鳥は、他の動物に比べると大きな眼球をもっている。その重量は脳のそれをこえることさえ少なくない。巨大な眼球をもっているため、眼球そのものを自由に動かすのは難しい。鳥は見る方向に眼球を動かすのが得意ではない。イヌワシの視力はヒトの8~10倍もある。
 鳥の眼は、一度に広い範囲にピントを合わせられ、近くも遠くもヒトよりずっと広い範囲を同時に見ることができる。
鳥の9割が、紫外線反射によってオスとメスを識別することができる。
 渡り鳥は太陽コンパスを用いている。同時に、星の分布と時刻によって方角を知ることも可能だ。
ハトは、磁気を感じることもできる。ハトなど長距離を飛行する鳥は、太陽や星座、磁気、景色などを手がかりとして総合的に方向を判断して飛行ルートを決めている。そのうちのどれか一つということではない。
 眼の誕生が、カンブリア紀の生き物の爆発的な進化を引き起こした。視覚の登場が、生き物たちの暮らす世界を大きく変え、そのことが急速な種分化を引き起こしたと考えられる。
 なにげなく見ている風景も、よくよく考えると、大変な進化の産物なんですね。見ることの意義を改めて考えさせられました。
(2012年2月刊。943円+税)

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