弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年4月14日

見えない雲

ドイツ

著者   グードルン・パウゼヴァーグ 、 出版   小学館

 1987年(昭和62年)に発刊された本を初めて読んだのです。
 ロシアのチェルノブイリで原発事故が起きたのは、その前年の1986年4月のことです。同じような原発事故がドイツで発生したときにドイツ国民にどんな影響をもたらすのかが、実によく分かります。先に、この本のマンガ版を紹介しましたが、その元になった本があると教えられて読みました。すでに黄ばんでいましたが、内容は古くなっていないどころか、まさにフクシマのあと日本が直面している事態が描かれていると感じました。
 そして、何より大切なことは、役人を信じないということだ。
そうですよね。政府も東電も信じられませんよね。「今すぐには健康に影響はない」なんてことしか言わなかったのですからね。そして、日本国民には知らせなかったデータを、いち早くアメリカには通報していたわけです。日本って、アメリカの属国でしかないというのは、悲しい現実です。
主人公の女の子は放射能のせいで頭の髪の毛が抜けてしまいます。夏の真っ盛りなのに、帽子やスカーフをかぶっている。そんな被爆者が周囲から差別され、誰も近寄らない。離れたところから好奇の視線を投げる。軽蔑したり、意地悪したり、心を傷つけることは誰もしない。隣に座ろうとする人もいない。こうやって被爆者は罪もないのに社会的に孤立させられるのですね。
 目には見えない放射能の恐ろしさですから、立ち入り禁止の生まれ故郷に戻る人々がいます。日本の福島でも同じことが起きています。この本では、故郷に戻った祖父が次のように孫に話す場合があります。
 「知らせなくてもいいことまでマスコミに知らせたのが、そもそもの間違いだった。連中は、なんでも大げさに書きたてる。そんなことさえしなければ、こんなヒステリーが生じることもないし、誇張やプロパガンダにまどわされることもなかった」
 今の日本の政治家の多くが同じ考えなのでしょうね。本当に嫌になります。民は由らしむべく、知らしむべからず、というわけです。でも、病気になる確率は若い人ほど大きいのが現実です。そして、年寄りだから、もう病気にならないということでは決してありません。
 脱原発の運動がもうひとつ盛り上がりに欠けるのが残念です。原発を推進してきた政治家が「身を削る」と称して、比例定数削減を狙うなんて、火事場泥棒のようなものですよね。まずは政党助成金を廃止して、国民(個人)の浄財(カンパ)以外に政党はお金を受けとれないようにすべきではないでしょうか。私たち日本人は、もっと怒るべきだと思います。
 この本がベストセラーになったおかげで、ドイツは脱原発へ大きく舵を切りました。それほどのインパクトのある本です。
(1987年12月刊。780円+税)

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