弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年2月 6日

脳の風景

著者   藤田 一郎 、 出版   筑摩書房

 人間の脳は、地球上で一番複雑である。いや、宇宙でもっとも複雑な構造物であると言える。
 小さなキャベツほどの脳の中に1000億個のニューロン(神経細胞)が押し込まれていて、その多くが1000から数万の他のニューロンとつながっている。ニューロン同士のつながり方にはルールがあり、緻密で膨大な配線をつくる。この巨大な神経ネットワークが人間のふるまいや心を生み出す。
多くの動物の洞毛ひげは、個体によらず、同一の種類であれば同じように生えている。
 ネズミのひげは、その一本一本に名前をつけている。
 盲目になった猫は、失った視覚能力を体性感覚や聴覚で補う。マウスも猫も、失明したあと、ものにさわったり音を聞くことで物体の識別したり、その位置を弁別する能力が向上する。
 アザラシが洞毛ひげをつかって水の動きの周波数を弁別する精度は、サルが手のひらで行う触覚の性能に匹敵するほどに高い。
カモノハシは夜間、濁った水中にもぐってエサをとるが、そのときには目だけでなく鼻や耳の穴も閉じている。それでもエサをとれる秘密はくちばしにある。上下のくちばしの表裏には、微弱な電気を感じることのできる電気受容器が4万個、水の乱れを感じることのできる機械受容器が6万個も埋め込まれている。
 スズメやヒヨドリ、ウグイスなどさえずりをする小鳥たちは、自分に固有のさえずりを生まれつき身につけているのではない。学習によって学んでいる。このことは里親実験によって証明された。生まれたばかりの幼鳥をオス親から引き離し、別のオス親のもとで育てると、里親のさえずりに似たさえずりをする。どのオスのさえずりも聞こえないようにして育てると、まともなさえずりの出来ない鳥に育ってしまう。いやあ、これって残酷な実験ですよね。
 生物の脳そして人間の脳の素晴らしい出来具合を知るにつけ、それを十分に活用していないところが、そして年齢とともに不活性化していっていることに、もどかしさを覚えてしまいます。
 それでも、こうやって毎日毎晩、読後感を書いていますので、そのうち何かいいことがきっとあることでしょう。そうですよね、チョコさん。
(2011年9月刊。1600円+税)

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