弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2012年1月 7日

不屈、瀬長亀次郎日記

日本史

著者  瀬長 亀次郎  、 出版  琉球新報社   

 すごい人物だと思います。日本の誇れる政治家の一人です。不屈というタイトルのとおり、不屈の一生を貫きとおしました。カメさんの背中に乗って祖国へ復帰しよう、こんなスローガンがあったと聞きます。まさに頼れるカメさんです。
 この本は、瀬長亀次郎の手書きの日記を判読して活字にすると同時に、歴史校証をする解説がついていますので、その日記の意味しているところがよく理解できます。そして、さらに面白いことにアメリカの内部の文書が日記の記述を裏付けています。
瀬長への最善の対処法は、彼がまるでこの世に存在しないかのように振る舞うこと。アメリカの弁務官が彼らの存在を認めることは、彼を実際よりも重要な人物のように見せてしまうことになる。
 人民党を共産党主義政党に指定し、合衆国にとって災いであると宣言しようという考えは別に目新しいものではなかった。しかし、そのような宣言にもとづいた身辺調査プログラムは、人民党に利するだけで、終わりのない、劇場型の訴訟への道を開くことになる。それは、アメリカに不満を持つ沖縄人にとって、人民党が唯一の望みとなることにつながる。人民党の幹部の誰かが離反し、党の陰謀や内部活動を暴露するまで待つべきだ。
 共産主義政党である沖縄人民党は、強いし指導力と組織力により、党員わずか300人、シンパ1200人という規模にもかかわらず、それにつりあわない強力なイメージを作りあげることに成功している。
 人民党の強みは、才能あふれる指導部である。瀬長は沖縄における極左のリーダーであり、拘禁されたり、那覇市長から追放されるなどという波乱にみちた政治人生を生き抜いてきた。
 瀬長亀次郎の勝利(1968年)は、軍事占領に対する抵抗のシンボルとなった男の勝利と言える。アメリカが殉教者をつくり出してしまったことの証だ。瀬長は、庶民性を兼ね備えていて、有権者に話しかけるときは方言を使い、内容はアメリカへの敵意にみちているものの、とても機知に富み、退屈で陳腐な表現をつかわない。
 アメリカから、これほどほめられた政治家がいたなんて、まったく驚きというほかありません。私が大学2年生のとき(1968年)、沖縄に革新政府(屋良朝苗主席)が誕生しました。
 そして、カメジローもそのあと国会に当選したのでした。当時の熱気がムンムンと伝わってくる日記です。丹念な掘り起し、お疲れさまでした。この労作が多くの人に読まれることを私も願います。なんといっても、沖縄は日本の一部なのですからね。今もアメリカ軍基地がある沖縄は特別なんだ、このようなという意識を持ってしまいがちですが、それは私たちの頭の中からきっぱり捨て去るべきだと思います。
 500頁近い本ですが、すらすらと読める本でもありました。
(2011年8月刊。2362円+税)

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