弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年11月 9日

明治維新と横浜居留地

日本史(明治)

著者   石塚 裕道 、 出版   吉川弘文館

 幕末から明治の初めにかけて、横浜に大量の英・仏軍兵士が駐屯していたこと、アームストロング砲はともかくとしてガットリング機関銃のほうは、まだまだ欠陥が多くて、実戦ではそれほど役に立たなかったことなどを知りました。世の中って、本当に知らないことだらけだとつくづく思います。
 英仏両軍の横浜駐屯は文久3年(1863年)から明治8年(1875年)までの12年間に及んだ。その間、この横浜のフランス山、トワンテ山一帯は、いわば外国軍隊による占領に近い異常事態のもとにあった。
 横浜には、明治11年(1878年)ころ、中国人1850人をふくめて外国人が3200人、進出している外国商社は60社に及んでいた。横浜港は日本全国の小銃輸入量の6割を占めていた。20万丁をこえ、小銃取引の一大拠点となっていた。相手かまわず利益を追求する、ヤミ空間に暗躍した外国商人がそこにいた。
 文久3年(1863年)、イギリスとともにフランスにも駐屯権が承認され、それまで公使館の護衛兵程度にすぎなかった兵士たちに加えて、大規模な英仏共同の軍事行動のかたちで、続々と両国軍の士官・兵卒が香港や上海などから横浜へ進駐を開始した。
 四国連合艦隊による下関砲撃事件は文久3年(1863年)から翌年にかけてのこと。長洲藩が合計6回にわたって外国艦隊を砲撃して交戦したが、結局、敗北した。英国陸軍の制式砲に採用された最新鋭の後装式施条砲であるアームストロング砲の攻撃力により、4日間の交戦で長州藩の敗北に終わった。その長い射程距離、高い命中精度、旧型球弾に代わる尖頭型炸裂弾の使用など、アームストロング砲は薩摩と長州側からすれば、地上最強の究極兵器に見えたことだろう。
 列強艦隊の中心は英・仏の兵力であったが、その6割を占めたのはイギリス海軍であった。この対外戦争の実態は「日英戦争」であった。英国公使オールコックは強硬派であり、対馬占領そして彦島の占領、さらには城下町萩まで侵略する作戦を主張した。これについて、英仏の現地軍司令官は兵員不足と不利な地形から反対し、占領侵略作戦は実施されなかった。かの有名なオールコックが、日本占領・侵略を主張していた強硬派外交官だったとは知りませんでした。
 オールコックは、基本的にはイギリス本国の自由貿易政策の保護者でありながら、当面の戦略では、ロシアの南下作戦に対する危機感から対馬ついで彦島の占領を提案したのだった。
 戦時に、アームストロング砲は故障が続出するなど、装備に欠陥があった。
 イギリスは、極東で保有する軍事力の3割を日本へ派遣していた。さらに日本で緊急事態が発生すれば、英仏軍合計6600あまりの横浜駐屯軍に加えて、日本への増派可能な軍事力として、2、3日中にも上海から、その3倍ほどの増援部隊を移動・派遣することが可能であった。
 ところが、日本の市場価値の低さもあって、イギリスには幕末日本を植民地化するという永続的・長期的な方針はなかった。それが幸いしたのですね。市場価値があるとみられた中国に対しては、イギリスはアヘン戦争を仕掛けたわけです。
 戊辰戦争のなかで長岡藩家老「軍務総督」河井継之助の戦力とその指揮力が近年高く評価されている。河井総督の最後の切り札はアームストロング砲とともに高性能のガットリング機関銃だった。これは、手動回転式6銃身、弾薬後装360発、砲架(砲車)に搭載移動、1門の価格6000両だった。ところが頼みの最新兵器ガットリング機関銃の性能は期待はずれ、陣頭指揮者であり射手として銃の手動回転を操作した河井総督も狙撃されて負傷し、更迭されてしまった。
このころは外国人の武器商人が双方の陣営に深く入りこんでいたのでした。アメリカでガットリングが新型銃を完成して売り出したが、不評だった。そのため、内乱列島の日本が兵器売り込み市場の一つとして注目され、海外市場の開拓として日本に売り込まれた。
 ガットリング機関銃は南北戦争でもわずかしか利用されず、南北戦争のあとにアメリカ陸軍が制式採用した兵器であった。ヨーロッパでは、まだ試用段階で、その性能は疑問視されていた。
 立ったまま銃身を手動回転させるので、敵から狙撃されやすく、毎分200発も発射できるといっても、それに必要な大量消費できる弾薬補給・輸送体制が確立していなかった。
幕末・明治にかけて、アメリカでは南北戦争が、フランスでは、パリ・コミューンがあって、日本どころではなかったというのが明治維新による変動が国内要因だけで成功した条件だったようです。まさに、昔も今も世界は連動しているのですね。
(2011年3月刊。2700円+税)

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