弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年11月 7日

五感で学べ

社会

著者    川上 康介 、 出版   オレンジページ

 読んでうれしくなる本です。だって、日本の農業を担う若者たちが、こんなに育っているのを知るなんて、とても喜ばしいことじゃありませんか。
 そして、その若者育成法は半端ものではありません。昔から軟弱な私なんか、一日で脱落しそうなハードさです。今どきこんな寮生活が考えられますか?
 全寮制で相部屋。朝7時に起床し、夜11時に消灯。門限は午後10時。寮内での飲酒は厳禁。テレビは禁止、ケータイも制限あり。外出、外泊は要届出。ケンカしたら、即刻退学。在学中は、帰省したときもふくめて、自動車・バイクの運転は禁止。部屋の整理整頓、掃除は義務で、月1回は校長による抜き打ち検査あり。うひゃあ、これはすごーい・・・。
 本科生(1年生)60人、専攻生30人。18~24歳の男子限定。ところが入学費・授業料・寮費・会費はすべて無料。ええーっ、では、誰が費用を負担しているの・・・?
しかも、研究費として、専攻生で月に1万6千円、本科生に月1万2千円が支給される。これって、いわば小遣いですよね。
 ここはタキイ種苗が設立した農業エリート養成所。正式名称は、タキイ研究農場付属園芸専門学校。なんとなんと、こんな専門学校が日本にあったのですね。ちっとも知りませんでした。私の日曜園芸はもっぱらサカタのタネを利用しているのですが、タキイって、こんな素晴らしい専門学校を運営しているのですね。すっかり見直しました。
 ちなみに、タキイの種苗は従業員700人、海外11ヶ国に拠点をもち、売上高424億円という日本最大、世界第4位の種苗会社。江戸時代の天保6年に創業されたというのですから、恐れいります。
 学校運営の経費は年間1億円。巨額ですが、それで日本農業の骨格をつくりあげるわけですから安いものですよね。国の援助がないのが不思議でなりません。
 新入生は、高卒37人、大卒12人、農業大学校卒が4人、専門学校卒1人。定員60人に90人の応募があったという。これは、近年の農業志向の見直しによる影響。
 生徒たちは、ここでハードな実寮生活を過ごすと、確実にやせ、タフになる。100キロの体重が、あっという間に80キロにまで落ちる。
 ここでは、トラクターではなく、原則として、すべて人力で行う。ここは、徹底した集団生活のなかで鍛えられる。誰も、ひとりぼっちにしない。濃密な人間関係が作られ、それは卒業してから生きてくる。農業は一人ではなく、集団の知恵で営まれるもの。
いかにもハードな実習と生活ですが、ここには哲学が生きていると思いました。
 こんな専門学校があることは、もっと世の中に知られていいと強く思いました。
 それにしても、この取材のために40歳の身でありながら実習に参加した著者に対して、心より敬意を表します。

(2011年7月刊。1429円+税)
 今度、事務員3人が秘書検定試験を受けることになりました。初めてのことです。そのためのテキストを少しめくってみたところ、弁護士も知っていたほうがいいことがいくつもありました。
 私もフランス語検定試験(準1級)を近く受験します。毎年2回の苦難の日です。それでも、少しは集中して単語を覚えますので忘却を食い止めるのには役に立っています。

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