弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年10月17日

働かないアリに意義がある

生き物

著者   長谷川 英祐 、 出版   メディアファクトリー新書

 アリがみんな働き者かと思うと、そうでもないようなんです。アリの面白い生態が明らかにされています。
 1980年代まで、真社会性の生物は、ハチ、アリ、シロアリくらいしか知られていなかった。その後、アブラムシ、最近ではネズミ、エビ、カブトムシの仲間、さらにはカビの仲間まで真社会性と呼べる生き物がいることが分かっている。
 真社会性のアブラムシには、無性世代のなかに攻撃に特化した「兵隊」がいる。
ハチやアリには司令塔はいない。では、どうやって適当な労働力を必要な仕事に適切に振り分け、コロニー全体が必要とする仕事を見事に処理できるのか・・・?
 アシナガバチの女王は働きバチが巣の上で休んでいるのを見つけると、「さっさと仕事しろ!」とばかりに激しく攻撃し、エサを取りに行かせる。ところが、やられた働きバチもさるもので、巣を出ていったあと、少し離れた葉っぱの裏で何もせず、ぼんやりと過ごしている。
 なーんだ、人間社会によく似ていますよね。営業マンが喫茶店で、ぼおっとコーヒーを飲んでいる光景を思い出します。
 巣の中の7割の働きアリは何もしていない。案外、アリは働き者ではないのだ。
 ハチもアリも、非常に若いうちは幼虫や子どもの世話をし、その次に巣の維持にかかわる仕事をし、最後に巣の外へエサをとりにいく仕事をする。このパターンは共通している。
 年寄りは余命が短いから、外で死んでも損が少ないということ。すごい仕組みです。
 ハウスに放たれたミツバチはなぜかすぐに数が減り、コロニーが破壊してしまう。ハウス内には、いつも狭い範囲にたくさんの花があるため、ミツバチたちは広い野外であちこちに散らばる花から散発的に蜜を集めるときより多く働かなければならない。つまり、それだけ厳しい労働環境に置かれる。この過剰労働がワーカー(ミツバチ)の寿命を縮めてしまう。うへーっ、ハウス内のほうが楽ちんかと思いきや、まるで逆なのですね・・・。
 みんなが一斉に働くシステムは、同じくらい働いて、同時に全員が疲れてしまい、だれも働けなくなる時間がどうしても生まれる。だれもが必ず疲れる以上、働かないものを常に含む非効率的なシステムでこそ、種全体としては長期的な存続が可能となる。長い時間を通してみたら、そういうシステムが選ばれることになったのだ。
 なるほど、ふむふむ、そうなんですね。よくぞ、ここまで観察したものです。学者は偉い!
(2011年7月15日刊。760円+税)

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