弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年8月20日

運命の人(1~4巻)

社会

 山崎豊子 文春文庫

 沖縄返還をめぐって、日本政府が密約をかわしていたことが今では客観的に歴史的な事実として定着しています。惜しむらくは、そのことについての国民の怒りが少々足りないということです。日本人って、どうしてこんなに大人しいのでしょうか。
福島原発事故で放射能が現に拡散しているにもかかわらず、既に多くの日本人が慣れて、あきらめている感があるのも同じ日本人として解せないところです。
 それはともかくとして、政府とりわけ外務省がアメリカの言いなりに外交交渉をすすめてきたこと、そして、ずっと国民を欺してきたこと、今も隠し続けていることに腹が立って仕方ありません。
 それをすっぱ抜いた毎日新聞の西山記者に対して、外務省の女性事務官と「情と通じて」と起訴状にわざわざ特記して大キャンペーンを張り、ことの本質から目をそらさせた政府、マスコミも許せません。
 おかげで西山記者は家族ともども長く日陰の身を過ごさざるをえなくなりました。まさに、正義はどこへ行ってしまったのかと慨嘆せざるをえない有り様です。
 著者はそこを本当にうまく書いていきますので、実に自然に感情移入させられ、涙と怒りで頁をめくるのがもどかしくなってしまいます。
 この本は、最後に少しばかり救いがあります。『沈まぬ太陽』にも、いくらかの救いはありました。それでも、その代償がいかに大きかったことか。
そんな不正義を許さないためには、この本を読み、政府と外務省の自主性のなさ、アメリカ言いなりの情ない姿勢に対して怒りの声をあげることではないかと痛感しました。
 依頼者の方から勧められて読んだ本です。

            (2011年2月刊。638円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー