弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年7月24日

フェルメールの光とラ・トゥールの焔

ヨーロッパ

著者    宮下  規久朗   、 出版   小学館ビジュアル新書

 フェルメールの光の粒も、ラ・トゥールの静謐な焔も、レンブラントの輝く黄金も、ダ・ヴィンチの天上の光も、美しい光は美しい闇がなければ描けない。
 これは、この本のオビにあるセリフです。まことにもってそのとおりです。この本を読むと、けだし至言である、とつい言いたくなってしまいます。
 レオナルド・ダ・ヴィンチの絵は、光はどこから差しているのかわからないが、人物たちは影の中から浮かび上がってくる。レオナルドは、背景を漆黒の闇に塗りつぶすこともあった。
16世紀のイタリアに来たギリシャ人、エル・グレコの「ロウソクの火を吹く少年」は、燃えさしの火種と、それが照らし出した少年の顔や手の明暗を、実際に観察したようにとらえている。宗教的テーマではなく、光と影の迫真的な描写がそこに認められている。
カラヴァッジョは、光と影による空間の描出、そしてドラマの演出に重点を移し、その技術を高めた。その絵「聖マタイの召命」は、見事です。
 17世紀はじめのヴェネツィアで活躍したドイツのエルスハイマーは夜景表現を得意とした。彼の「エジプト逃避」には、満天の星、天の川、そして星座が正確に描かれている。これって、すごいことですよね。天体望遠鏡の精度はそれほどのものではない時代に・・・。
 17世紀はオランダが美術史上類を見ないほど濃密で高度な美術の黄金時代を迎え、科学や哲学も発展したため、オランダの世紀と呼ぶこともある。
 オランダ絵画の黄金時代を代表する三代巨匠ハルス、レンブラント、フェルメールは、いずれもイタリアには行っていないが、みな深くカラヴァッジョ様式の影響を受けている。
 レンブラントの絵「夜警」っていいですよね。ぜひ、一度現地に行って現物を拝みたいと思います。
 ゴッホの「聖月夜」も最後のところで紹介されています。夜の闇のなかに、くっきり光かがやくように描くのって、希望があっていいですね・・・。素敵な新書でした。
(2011年4月刊。1100円+税)

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