弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年7月15日

フィデル・カストロ(下)

アメリカ

フィデル・カストロ(下)
著者    イグナシオ・ラモネ  、 出版   岩波新書

 キューバから27万人がアメリカに向けて脱出していった。1959年から62年にかけてのこと。これには医師、技術者などの知識人が数多くふくまれていた。その結果、キューバは専門職の欠乏に直面し、それに耐えた。彼らは、20倍も多い給料や物質的価値を求めてアメリカへ行った。キューバ政府は、教育面で甚大な努力を払うことによって専門職の欠乏に耐え、しのぐことが出来た。
 アメリカは、キューバからの不法移民を促進する法律をつくった。船や飛行機を乗っ取ってアメリカへ脱出しようとする者に、アメリカはあらゆる権利を認めている。これは犯罪を奨励しているようなものだ。逆に、アメリカ人がキューバを許可なく訪問したりすると、最高25万ドルの罰金が科せられる。それに企業がからむと、罰金は最高100万ドルにもなる。
 キューバ高官が汚職・腐敗で逮捕され、死刑に処せられた事件がありました(1989年)。そのことについて、カストロは次のように語っています。
 権力は権力だ。権力をもつものにとって、もっとも重要なたたかいはたぶん己とのたたかい、自分自身を統御するたたかいだろう。それは、恐らく、たたかいのもっとも難しい部類に属す。その高官たちは麻薬密輸業者と取引していた。コロンビアのエスコバルから海上で6トンもの麻薬を受けとってアメリカに運ぶという話だった。そして、彼らは、それがキューバに役立つと信じていた。
 この事件では高官たち4人が反逆罪で有罪となり、銃殺刑に処せられたのでした。
カーターは、カストロの知るもっとも良いアメリカ大統領だったと高く評価されています。そして、エドワード・ケネディについても、文句なしに才能のある人物だとされています。
 キューバには政党が一つしかなく、反体制派がいて、政治囚がいるという批判に対して、カストロは次のように弁明しています。
 我々は唯一の政党ではなく、世界で一党制を維持している唯一の国でもない。
チリのアジェンデとベネズエラのチャベスについて、クーデターに対する対処法のアドバイスが違っていたとカストロは語ります。
アジェンデには兵士が一人もいなかった。チャベスは陸軍の兵士と士官の大部分、とりわけ若い兵士をあてにすることが出来た。だから、カストロは、辞任するな、辞めてはならないと伝えた。
これに対して、アジェンデに対しては抵抗するよう伝えた。アジェンデは誓ったとおり、英雄的に死んでいった。
キューバには、現在、1959年当時に残っていた医師の15倍もの医師がいる。このほか、何万人もの医師が世界40ヶ国で無料で働いている。キューバ人医師は7万人いて、医学生は2万5000人いる。医学関係の学生総数は9万人にもなる。今、キューバは世界一の医療資本を築こうとしている。
 幼稚園から、9学年までの通学率は99%。生徒一人あたり教師の多さと一学級平均の生徒数の少なさは世界一だ。国が報酬を与えながら教育する制度が17歳から30歳まである。博士課程まで、誰でも一銭も払わずに教育を受けられる。革命前の30倍もの大学卒業者、知識人、職業芸術家がいる。芸術学校で2万人の若者が学んでいる。
キューバ人民の85%は住宅の所有者で、住宅に関連する税金はタダ。残り15%は、月給の10%の格安賃料を支払うだけでよい。
 キューバに行ったことはありませんが、アメリカのマイケル・ムーア監督の映画『シッコ』にも出てきましたが、キューバの医療水準は高くて無料だというのですから、日本人からすると夢のような話です。国家経済は大変ですし、決して豊かな生活を人々を過ごしているということでもないようですが、安定した生活が続いていることは間違いないところでしょう。
 キューバのカストロの話を一度聞いてみるのもいいことだと思い、紹介しました。
(2011年2月刊。3200円+税)

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