弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年6月29日

苦悩するパキスタン

アジア

著者    水谷 章  、 出版   花伝社

 外務省に入ってパキスタン公使などを歴任した人ならではの詳細なパキスタン情報が満載の本です。貴重な本だと思いました。
 パキスタンというと、今も一人パキスタンで、孤軍奮闘中の福岡出身の中村哲医師(ペシャワール会)を思い出します。スライド付きの講演を聞いたことがありますが、本当にすばらしい活動だと感嘆し、敬服しました。
 パキスタンには全アジアのムスリム人口6億4000万人の4分の1を占めるムスリム社会がある。パキスタンの厳しい自然条件と地域差、民族と言語の違いは、まさにモザイク状である。信仰・規律・統一をモットーに、ムスリムであることのみをもって国民をまとめる唯一の紐帯としてできたイスラム教徒の国である。
 識字率の低さなど教育の不備とあいまって、固陋な思想と因習が同時に温存している。
 初代首相は暗殺され、建国後の10年間に首相が7人も交替した。いやはや、まるで、今の日本みたいですね。どんな人が首相になっても、国はもつものなんですよね。
 現在のパキスタンは総人口が1億6000万人。世界で2番目に大きいムスリム国家である。全国の土地の70%を全体の5%の地主が所有している。したがって、健全な中産階級がパキスタンでは育ちにくい。
 国民一般の低い識字率と教育水準は、社会階層間の交流を妨げるとともに、既得権益層、とりわけ政治エリート階級を固定化した。パキスタンの国会議員のほとんどは、封建地主、部族長あるいは宗教リーダーなので、根本的な社会改革はすすみにくい。
国民は政治家にはあまり信頼を置かないが、軍には一定の信頼を置いている。現在のパキスタンにおいては、軍がもっとも強力かつ統制のとれた組織である。軍事費はGDPの6%を占めていたが、今は3~4%で推移している。政府支出の中では30%~20%を占めている。
 パキスタン軍は志願制であり、予備役25万人をふくむ陸軍兵力80万人を中心とする。軍人は採用以来、昇進など実力主義で処遇されており、専門的能力が高い。パキスタンは核保有国であるが、通常は核弾頭を外している。
 パキスタンにおいて、軍は、国家の統治機構の一部分であるだけでなく、国家経済のなかで国家資源を流用・費消して成り立つ、一つの独立した他の統治機構の索制を受けない、経済単位となっており、一面において自己完結的な存在でもある。
 軍は、パキスタンの野心的な若者にとって、雇用と社会的影響力、そして老後の安定という面から、きわめて魅力的な職場である。
9.11後、アメリカは、ムシャラフ政権が対アフガニスタン政策を急転回させて、テロとの闘いでアメリカ支援を明確してから、パキスタンに対して総額100億ドルをこえる軍事・経済支援を行ってきた。
 アフガンのムジャヒディンがソ連と戦うのを支援するため、アメリカCIAは60億ドル、サウジGIDは50億ドルをつぎこんだ。そして、パキスタンのISI(三軍統合情報局)は、8万3000人のムジャヒティンを訓練した。
 これは、ビン・ラディンをアメリカCIAが養成したということです。アメリカは、自ら育てた鬼っ子に手を深くかまれたというわけです。
 アフガニスタンのタリバンはパキスタンISIと、サウジGIDから流れ込む資金と武器、貧しさとマドラッサでの偏った教育から続々うまれるタリバン志願兵、そして秩序回復の見返りとして麻薬密輸業者が支払う「10分の1税」を元手として、驚くほどの速さでアフガニスタン全土を席巻した。
タリバンについては、次のように言える。反ソ、ジハードの熱情から生まれ、CIAの養分をたっぷり吸って、ISIに狂気と凶暴さを教え込まれたタリバンという名の「フランケンシュタイン」が歩きはじめた。
 パキスタンという国を理解することの大変さが実感できる本となっています。
(2011年3月刊。2500円+税)

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