弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年4月26日

沖縄決戦

日本史

著者  新里 堅進    、 出版  クリエイティブマノ   
 
 丸ごと戦場となった沖縄の凄惨な地上戦のイメージがひしひしと伝わってくる劇画です。本土防衛の捨て石とされた沖縄地上戦の顛末の全体像が迫真の画で明らかにされています。現実は、もっと悲惨だったのでしょうが、ここに描かれた絵だけでも、もう十分ですと悲鳴をあげたくなります。
平和な島、日本軍に絶対の信頼を置いていた沖縄の人々が、ある日突然、アメリカ空軍の大規模な空襲にあい、逃げまどいます。そして、アメリカ軍の上陸作戦の前には、とてつもない数の軍艦による艦砲射撃によって地上の市街地は壊滅させられてしまいます。やがて、上陸したアメリカ軍と地下に潜んでいた日本軍との死闘が始まります。
前に紹介しました『シュガーローフの戦い』(光人社)の凄まじい戦闘状況も描かれています。戦史をなるべく忠実に再現しようとした著者の努力によって、沖縄地上戦のすさまじさを十二分に実感できます。それにしても、軍隊とは何を守るものなのかを改めて考えさせられます。
何の武器も持たない住民が逃げまどうなか、それを楯にして軍隊が移動していきます。そして、逃げこめる洞窟が一つしかないとき、軍隊は情容赦もなく、先に入った住民を追い出してしまうのです。
「おまえらを守るために戦っているのだから、出て行け」というのです。おかしな理屈ですが、銃剣とともに迫られたら住民は従うほかありません。
また、沖縄方言で話していると、アメリカ軍のスパイだと疑われて銃殺されたり、アメリカ軍に投降しようとすると裏切りものとして背後から射殺されたり、日本軍の暴虐非道ぶりは目に余るものがあります。
そして、抵抗なく上陸し、すっかり安心して進軍していたアメリカ兵も、内陸部にさしかかったとき日本軍の頑強な抵抗を受けると、たちまち総崩れし、兵士たちのなかに発狂する者が続出するのでした。
姫百合部隊の活躍の場面も紹介されています。大きな地下の穴蔵生活のなかで、どんなにか苦しく、つらい生活だったことでしょう。もっともっと長生きして、人生を楽しみたかったことでしょう。青春まっただなかだった彼女らのつらい日々も偲ばれます。
日頃はマンガ本から遠ざかっている私ですが、心揺さぶられるマンガ本でした。一読を強くおすすめします。ノーモア沖縄、ノーモア戦争を改めて叫びたくなりました。
(2004年1月刊。2136円+税)

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