弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年3月31日

日本1852

日本史(江戸)

著者  チャールズ・マックファーレン、  出版  草思社
 江戸時代の末期、黒船に乗ってやってきたアメリカのペリー提督の日本についての知識が、こんなに深いもので裏付けられていたとは知りませんでした。
 この本は、著者自身が日本に来たことはなかったものの、日本に行ったことのある体験記、見聞記を集大成して、ペリー提督を含めた欧米の人々に日本と日本人の全体像を提供したものです。その内容は、当然ながら今日の日本とはかなり違ってはいますが、かなり当たっていると思わざるをえないところが多々あります。その意味で、江戸時代の日本、ひいては日本人が昔からあまり変わってないことをよく知ることのできる本でもあります。ペリーたちが、日本についてこんなに知って来日したなんて、私にとってまったくの驚きでした。
 本書が発行されたのは1852年7月。ペリー提督がアメリカを出港する4ヶ月前のこと。
 ザビエルたち日本に来た宣教師は、日本人を賞賛した。日本人の従順で他者に優しい気質。恩義を重んじる傾向にあること。今でも言われますよね。NHKのフランス語の講座で、フランス人による日本論で同じ指摘があります。
 徳川家康がなかでも喜んだのは幾何と代数だった、という記述があります。うひゃあっ、と思いました。単に世界の地理と情勢を喜んだというのではありません。ヨーロッパの数学を聞いて学んだというのです。家康を私は見直しましたよ・・・。
 日本人は礼儀正しく、好感が持てる。戦になると勇敢だ。仁義を重んじ、それに違反するものは厳しく処分される。礼節によって統治されている。日本より礼節が重視されている国は他にないだろう。神を敬うことには熱心である反面、多様な考えをもつことにも寛容である。
 日本人には、性的にも自制心がないという性癖がある。地方領主や有力者は、たくさんの妾をもっている。彼らは、この悪徳を矯正しようとした宣教師たちへ反感を抱いた。
 アヘン戦争の状況は、ことごとく日本人へ伝わっていた。
日本人とは、創意工夫の精神にみちた民族だ。豊富な資源と商業をはぐくむ能力。そこには十分な数の人口が存在する。この国を治める諸侯も高い知性を示している。こうした日本人の能力、エネルギー、起業家精神をみると、アジア諸国の中で一頭地を抜く存在になる可能性が高い。
 一般に、日本語の発音は明瞭ではっきり聞き取れる。
 漢語(中国語)は、HをHとしてはっきり区別して発音するが、日本人にはHもFも同じである。逆に、日本人の発音ではRとDは区別されるが、漢語ではどちらの発音もLに聞こえる。うへーっ、これってどうなんでしょうか。いまは逆のことが言われてますよね。
 女性も日本では帝位につくことができる。女性が治める素晴らしい時代もあった。
 女性の地位と立場は日本では相当に高い。他のアジア諸国の中でも飛びぬけて高い。江戸時代に住む女性は、コンスタンチノープルのトルコ女性の百倍もの自由があり、計り知れないほど大事にされている。日本の女性は隔離された社会に閉じ込められてはいない。フェアな社会的地位をもち父や夫と同じように遊びに興じている。
日本の政府は教義には無関心だ。どの宗派も自由に教義を戦わせている。政府の無関心さは、世界ではひどく稀で、賞賛すべきことだ。
 信長は坊主たちのしつこさに辟易しつつ、日本に存在する宗教の数を問うた。35と答えた坊主に、それなら36になっても一向に問題なかろう、宣教師は放っておけと提示した。
 日本の皇帝(天皇)は政治的な重みを持っていない。それどころか、帝の暮らしは、牢に入れられたようなものである。すべての大名はスパイや内通者の監視下にある。日本のシステムは、治める側の生活のほうが治められる側のそれより惨めだとも言える。人の嫉妬を利用した管理法は小さな藩でも同じだ。このように嫌悪感を催すような政府の仕組みにもかかわらず、一般の日本人はほとんどいつでも気さくに振る舞い、言いたいことを自由に発言している。ええーっ、これってまるで現代日本のことを言っているみたいじゃありませんか・・・。
 日本の法には血なまぐさ漂うが、現実の運用では死罪の適用に積極的ではない。裁く側に広い裁量権が認められているのだ。
  この風変わりな民族は本当に花が好きなのだ。ほとんどすべての家庭が裏庭に庭園を持ち、前庭には花をつける低木を植えている。この国を訪れる誰もが農業や園芸のレベルの高さを賞賛している。
 日本人の器用さや創造力はよく知られている。日本の製品の出来栄えは頑丈さ、安定性、仕上げの良さまで中国の製品を上回っている。日本人は社交的で遊びが好きな民族だ。しっかり働き、労働時間は長いが、祭りにはごちそうを食べ、大騒ぎをする。祭りでは、音楽、踊り、演劇がどの身分でも楽しめる。道化師や役者たちが町を練り歩く。曲芸師、手品師、ジャグラーたちが人々を楽しませる。
 日本人はきれい好きで、身分の高低にかかわらず、風呂が好きだ。日本の家は驚くほど清潔だ。
  子どもは全て学校に行かされる。学校の数は、世界のその国よりも多いと言われている。日本人は名誉を異常なほどに大事にする民族である。少し高慢で、仇討ちに価値を置き、少し好色なところがある。それが欠点である。
真面目だけど、遊びも好きで、かつ好色。それが日本人だというのは、現代にも通用する日本人論ではないでしょうか・・・。

(2010年2月刊。1600円+税)

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