弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年2月 2日

特務機関長・許斐氏利

日本史

著者   牧 久、  ウェッジ 出版 
 
 軍隊・日本軍を美化する風潮も根強いものがありますが、その実体を知れば知るほど、こんなひどい利権集団に国の運命をまかせるわけにはいかないものだと痛感します。国を守るなんて言いながら、その内実は利己主義者の集団だったのではないでしょうか。そんな軍の手先の一つが特務機関でした。中国大陸で金にあかせて暗躍し、暴虐の限りを尽くしたのです。そして、戦後の日本に私物化した大金をひそかに持ち帰って、またもや日本で贅沢三昧しました。
許斐は、このみと読みます。宗像(むなかた)大社を護る許斐城の城主だったということです。私の中学校の同級生にも、この許斐姓がいましたので、私は、抵抗感なく、このみと読めるのです。
 許斐氏利は、沖縄で牛島中将とともに自決した長勇参謀長のナンバー2だった。長勇参謀長を英傑と評価する人も少なくないようですが、私には、無責任な帝国軍人の典型としか思えません。
 日本軍は中国にいくつかの特務機関を設置した。その活動資金は軍の機密費から出ていた。日本軍による南京大虐殺にも、この許斐氏利は、長勇とともに関与しているようです。中国が30万人もの大虐殺があったと主張している大変な事件です。正確な人数はともかくとして、日本軍が大虐殺を敢行したこと自体は間違いないのです。ところが、人数の大小を問題にして、その責任を素直に認めようとしない議論をする日本人がいるのが私には不思議でなりません。
 許斐氏利は27歳のとき、中国人の配下70人をふくめて100人もの人数を擁する特務機関長として暗躍した。そして、軍の機密費は禁制品の阿片取引から出ていた。満州国政府は、阿片を専売制にして、その収入は国家予算の6分の1を占めていた。日本政府も、中国における占拠地の運営の正規予算のなかに阿片による収入計画を組み込み、実行していた。日本は、阿片を計画的に入手し、それを自治政府に分配していた。阿片による収入がなければ、日本は、これだけ大規模な戦争を遂行することは出来なかった。そして、この阿片取引には、日本政府の下で、三井物産も三菱商事もかかわっていた。   
三井と三菱が中国大陸における阿片の売買でもうけていたこと、そして、戦後の中国に対して謝罪もしていないことを知りました。阿片をすすめて多くの人間を廃人にしながら、自分だけは涼しい顔をして「文化的」な生活をするなんて、許せませんよね。
(2010年10月刊。1800円+税)

 先日、あるパーティーの席で福岡の岩本洋一弁護士から、この本は読んだかと尋ねられました。もちろん、こうやって読んでいたわけです。ときどき面白い本を薦めらます。これからも、どうぞご紹介下さい。
 ところで、日曜日と月曜日はすごい雪が降りましたね。高速道路も一時ストップしていたようです。そんな寒さで、いつもなら咲いている水仙の花が今年は開花が遅いそうです。でも、チューリップの芽が地上から、あちこちで顔を出しています。2月は逃げるそうです。もうすぐ春が来るのですよね。

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