弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2011年1月12日

無縁社会

社会

著者 NHK取材班 、 文芸春秋 出版 
 
現代日本社会って、いつのまにか寒々としたものになってしまったんだなあと、つくづく実感させられる本でした。効率とお金万能、持てる者の強者論理が大手を振ってまかり通っていて、弱者を平然と切り捨てても見て見ぬふりをしてしまう社会の冷たさです。私なんて、涙がでるくらい情けない世の中になってしまったものだと思うのですが・・・・。
日本航空が業績回復のために乗務員など170人の解雇を決めました。これを多くの国民が平然と受けとめていますが、実は大変なことなんですよね。ちょっと業績が悪化した企業だったら簡単に労働者を解雇できるという悪しき先例をつくることになります。これって判例の積み重ねを全否定するような暴挙です。ちょっと待ってよ・・・・。明日は我が身なのかもしれませんよ。ともかく、他人は他人と簡単に割り切っていいものでは決してありません。
NHKスペシャルで「無縁社会」を放映したら大反響があったそうです。私はテレビを見ませんので、残念ながらその映像は見ていませんが、この本を読むと現代日本の病弊が赤裸々に浮きぼりになってきます。
行旅病人および行旅死亡人取扱法という法律があることを初めて知りました。行旅死亡人とは、警察でも自治体でも身元のつかめなかった無縁死のこと。住所、居所、もしくは氏名が知れず、かつ遺体の引き取り者なき死亡人は、行旅死亡人とみなす(法第1条第2項)と定められている。
通夜も告別式もない。遺体を火葬するだけで弔う「直葬」が広がっている。儀礼は行わない。自宅や入院先の病院などから直接遺体を火葬場に運んで茶毘に付す弔いのスタイル。これで費用が10~20万円台。東京都内で行われている葬儀のうち30%を直葬が閉めている。
特殊清掃業者とは、自治体の依頼で、家族に代わって遺品を整理する専門業者のこと。数年前に誕生し、今では30社あまり。いずれもインターネット上に自社のホームページをもって、大都市に事務所をかまえている。この業者は故人の部屋に入るときには、異臭が激しく部屋も汚れているため、オゾンを放出する特殊な装置を持ち込む。オゾンには強力な酸化作用があり、殺菌や脱臭、有機物の除去に役立つ。
富山県高岡市のお寺が引き取り手のない遺骨を引き受けているというのにも驚きました。
 葛飾区にある都営団地には一人暮らしが団地の全世帯の3割になっている。うむむ、これって多いですよね。多すぎます。一人で生活したほうが気ままでいいと言っても、病気したらどうしますか・・・・。
一人暮らしの高齢者が高額な訪問販売の被害にあうことも多い。これは私も何回も事件として取り扱いました。どうやら、騙し易い人のリストがブラック業者に渡っているようです。
高齢者の単身化がすすみ、25年間に2倍になった。そして、50歳まで一度も結婚したことのない「生涯未婚」率も増えている。
結婚しない、できない大きな理由の一つが、非正規雇用が増えて、低賃金のうえに経済的に不安定なため不安から結婚できないということ。これって、まさに政治の責任で解決すべきものです。これを解決しなければ、少子化対策やっていますなんて言えませんよ。 
子どもたちの住む東京など大都会へ呼び寄せられた高齢者の問題も目立ってきた。都会の生活になじめず、孤独を感じながら生活している高齢者が増えている。私の住む団地でも高齢化がすすみ、子どものいる東京や横浜へ転出するお年寄りが続出しています。果たして、周囲に同年輩の知人が一人もいなくて大丈夫やっていけるんだろうかと、いつも心配しています。
 この番組を見た30代、40代の人々から大きな反響があったそうです。「俺も仕事がなくなったら無縁死だなあ」とつぶやく34歳の男性など、他人事とは思えないとういう人が圧倒的に多いのです。今ならまだ間にあうような気がします。もっと生活と仕事が安定するような社会環境を早急につくりあげるべきです。弱者、この場合は高齢者と若者にもっと光をあてて、真剣に打開策を考えるべきです。
読んでいくうちに身につまされ、背筋の凍る思いがする本ですが、それでも一読をおすすめします。
(2010年12月刊。1333円+税)

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