弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年12月28日

弁護士業務改革

司法

 著者 日弁連業革シンポ運営委員会、 弘文堂 出版 
 
 昨年(2009年)、松山で開かれた第16回弁護士業務改革シンポに私も参加しましたが、この本には、5つの分科会での議論状況が大変要領よく、読みやすい形でまとめられています。今後の法律事務所の運営を考えるうえで、大変参考になる本だと思います。
私の事務所にもホームページ(HP)があり、市民向けの広告宣伝につとめているつもりですが、そのときに悩ましいのが専門分野を表示したいのに出来ないことです。日弁連には専門認定システムがまだありません。
 アメリカのカリフォルニア州弁護士会には22万人の弁護士がいて、16万人が実働している。平均年齢47歳、6万人以上は単独もしくは小規模の事務所に所属している。カリフォルニアの専門認定弁護士制度は1972年に始まった。当初は、刑事法、税務、労災そして次に家族法が加わった。一般市民にもっとも身近な法分野から始まったわけである。現在、4153人の専門認定弁護士がいる。圧倒的に多いのが一つだけ認定をもらっている弁護士である。
 専門認定を受けるためには5年の実務経験がいり、同業者からの評価も認定要件となっている。再認定の要件は、5年ごとに継続的に専門分野で仕事していること、1年間に15時間、5年で60時間の継続教育を受けることなどである。専門認定を受けた弁護士は、それまでより20%も報酬が上がった。
4千人というのは意外に少ないと思いましたし、一つだけというのにも驚きました。認定要件も同業者からの評価がいるなど厳しいと思います。
日本では、弁護士人口が増大するなかで、弁護士複数の事務所も増えています。2008年時点では、2人に1人の弁護士が2人から10人の事務所に所属する。
 それによって、分野のバラエティーが増し、仕事の効率が良くなり、その結果として弁護士のクオリティーが向上する。事件の過誤を防止し、案件を多角的に検討することができる。また、ブランドイメージとなって、信用力が強まる。
 弁護士の競争が激化していくとき、それに勝ち抜く手段は専門化である。
事務所の経営形態が実にさまざまであることが紹介されています。私の目を魅いたのは、弁護士が共同で受任するとき、その事件を受けた弁護士が報酬の3割をまずもらい、残りの7割を事件にかけた時間の割合で分けるというシステムをとっているところがあるというものです。
うむむ、これって案外、合理的なシステムなのかもしれないと思いました。
毎朝9時から全員でミーティングをしている事務所。週に1回は夜6時半から9時まで、事務所で食事つき、アルコール抜きで事務所(弁護士)会議をやっているところ。パートナーが月2回集まり、ランチを食べながら経営会議をしていところ。ベテラン弁護士が事務局長となり、事務員の側に事務局次長を1人おいて、指揮命令系統の簡素化を図ってるところなど、さまざまな工夫がされています。私の事務所でも、事務員をふくめた所員全員の事務所会議のほか、弁護士だけの昼食会をもっています。日程調整が容易でないのが悩みです。
フランスでは、弁護士はスペシャリストである前に、ゼネラリストでなくてはならないと強調されているそうです。たしかに、専門性は必要ですが、その前に弁護士としての基本的資質を身につけておく必要があるということでしょう。これから弁護士と法律事務所のあり方を考えるうえで必読の文献だと確信します。 
(2010年12月刊。3800円+税)

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