弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年12月 2日

ギリシャ危機の真実

ヨーロッパ

 著者 藤原 章生、 毎日新聞社 出版 
 
 ギリシャには行ったことがありません。パンテノン神殿とか、一度は行ってみたいと思ってはいるのですが、少しは言葉の分かるフランスにどうしても魅かれてしまいます。
 それでも、先の選挙のとき日本がギリシャのようになってはいけないというキャンペーンが自民党や財界筋から出てきましたので、ギリシャの国の実情を知りたいと思って読んだのでした。この本を読んでギリシャの国の一端が少し分かった気になりました。ギリシャって、日本とはかなり異なった国家と国民性がある。つくづくそう思ったことです。
 まず第一に、ギリシャの公務員の総数を政府も把握しきれていないというのです。これには驚きというより、呆れてしまいました。
 公務員は選挙のたびに増え、2009年は2000年に比べて3割増の114万人になった。これは労働人口の21%、雇用者の3分の1に及ぶ。ところが、これは推計であって、実数は政府もつかめていない。
 新たな政権ができると、閣僚の顧問や局長職は総入れ替えになり、閣僚や次官などの政治化が好きなように身内や友人などをそのポストに就ける。このときに臨時雇用だったはずが、いつのまにか正規雇用になっていて、政権が交代しても解雇されない。
官僚の給料は安いので、副業にいそしむ人は多い。これは民間企業でも同じこと。無税で働く非公式のお金、闇経済の社会がギリシャにはある。
 そして、ギリシャの総計はまったく信用できない。実に怪しい数字をもとに算出されたマクロ経済の総計だけでこの国の実態は語れない。
ギリシャでは、政治すなわち公職を得る手段だと思われてきた。特権層に集中していた悪習を、パパンドレウ父首相は、左派の庶民にまで広げてしまった。ギリシャでは縁故主義が根強い。
ギリシャ共産党の得票数は1割でしかなく、議会政治のなかでは、決して主流になれない。しかし、ギリシャでは共産党員は孤立しておらず、庶民の中にふかく浸透している。
 ギリシャ共産党は、庶民の目から見れば、訳の分からないこと、実現しそうもない理想をうたう人々である。しかし、困ったときに、また自分が国の犠牲になったときには親身に相談に乗ってくれる相手である。
 共産党の古臭いスタイルのデモに、ごく一般の穏健な人々から極左まで参加している。そこには、レジスタンスを率いながら、戦後いい目にあえなかった被害者としての歴史がからんでいる。ギリシャ共産党は、主流のプレーヤーにはなれないが、庶民を動かし、世界に国のイメージを植えつける社会の一つのツールとしては機能している。
ギリシャ人は現状にすぐ慣れる。そして変化には強い。今回の危機など、長い歴史の中でみると大したことはない。周りが騒ぎ過ぎているだけ。
 何を言われようと、どれだけ困ろうと、頑固にギリシャ人は生活スタイルを変えようとしない。ギリシャ人は、したたかで図太い。ギリシャ人は、ドイツ人のようなあくせくした生活を嫌っているようです。でも、決して怠けを好んでいるのではありません。だって、2つも3つも副業して働いているのですからね・・・・。世界はなかなか広いですよね。
 
(2010年8月刊。952円+税)

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