弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年11月16日

脱・「子どもの貧困」への処方箋

社会

著者:浅井春夫、出版社:新日本出版社

 10月に盛岡で開かれた日弁連の人権擁護大会で素晴らしい劇をみました。東京の若手弁護士たちが関わっていることは分かっていましたが、その迫真の演技に、まさか弁護士が演じているとは思えません。ところが、あとでパンフレットを見てみると、ほとんど弁護士が演じていたのです。すごい、すごいと一人で興奮してしまいました。
 といってもストーリーの内容は悲惨です。離婚した母親。職場や地域でいじめにあって、うつ病。住まいはゴミ屋敷と化します。二人の子どもたちは満足に食事をとらせてもらえなくて心身ともに発育不良。社会に出ても、なかなか落ち着けない。そんな苦労話のなかで、弁護士との接点が少しだけ明るい話として登場してきます。いやあ、本当に、世間の風は冷たいよね。思わず、涙ぐんでしまいました。この劇の骨子を提供しているのが、この本です。日本の悲惨な現実を改めて認識させられました。
 子どもの貧困は、現代日本の政策によって緩和されるどころか、つくり出され深刻化している。子どもを養育する大人が複数から一人親になることで、生活の貧困化が急激にすすむ現実がある。「子どもの貧困」は、個人・家族の責任だけに帰する問題ではなく、社会が生み出す問題として考えなければならない。
 今の日本の現実の一例。
○ 給食がないので、夏休み明けに10キロも痩せてくる中学生がいる。
○ ほとんど給食だけで暮らしている子どもがいる。
○ コンビニ弁当、カップラーメン、冷凍食品、お菓子など、まったく手づくりの食事をとったことのない子どもがいる。
○ カッパや傘がなく、雨が降ったら無断欠席する子どもがいる。
 うへーっ、これが金持ちニッポンで子どもたちの置かれている現実なのですね・・・。
 子どもを虐待する親の特徴。
 第一に、自己評価の低下サイクルに陥っている。 
 第二に、親は自らの行為を虐待であると思わないか、認めようとしない。
 第三に、社会的に孤立している。
 第四に、ストレス解消法を知らない。
 第五に、子育ての間違いに気がついておらず、「体罰」を「しつけ」と考えている。
 そうなんですか・・・。
 1990年から2008年までの18年間で、高校三年生の性交経験率は、5分の1から半数へ急増した。性被害・加害経験の多さも、「生徒の性」を考えるうえで避けて通れない。
 民主党政権の子育て支援政策は、現金給付に力点を置くという特徴がある。しかし、現金給付は、子どものために、そのお金が使われるという保障はない。親の生活費の補填に回る可能性は高い。
 いまの日本の現実に対して、政府は、「子どもの貧困」との戦争について「宣戦布告」する決意が問われている。
 子どもの貧困率14.2%を半分に削減する目標と、達成年度を明確にして提示すべきである。
 食生活の貧困は、食事内容の貧しさとなって現れる。それは子どもに必要な栄養価を満たすことなく、身体的な発達への影響や病気へとつながりやすい。
 食生活の貧困は、家庭だんらんを奪うことと同じである。子ども期には、食べたいものが食べられる権利の保障がなくては、安心・安全の生活とはいえない。
 すべての子どもがおなかを空かして悲しんでいることのない社会を今の日本で実現できないはずはない。すべての子どもたちが腹一杯に食べることができ、きちんと学校で勉強ができて、いじめにもあわない。そんな社会になったら、安全な社会を維持する経費が、今よりもずっとずっと安くなる。
 物事は、すべて視点を変えてみる必要がありますよね。日本の現実を知るうえで、いい本でした。ぜひ、あなたも、ご一読ください。
(2010年8月刊。1700円+税)

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