弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年9月 1日

ラ米取材帖

アメリカ

 著者 伊高 浩昭、 ラティーナ 出版 
 
 はじめ、この本のタイトルの意味が分かりませんでした。ラテン・アメリカを「ラ米」としたのです。つまり南アメリカのことです。もっと分かりやすいタイトルをつけてほしいですよね。
 1967年以来、48年間に及ぶラテン・アメリカ取材の記録が一冊の本にまとめられています。まさしく現在のラテン・アメリカは今昔の感があります。かつての反共・軍事独裁政権は、いまや、どこの国にも存在せず、対米自主外交というより、反米傾向が強くなっています。これは、それだけアメリカがこれまで無茶苦茶なことをやってきたことの反動、裏返しなのだと思います。
 アルゼンチンでは、肉と言えば、牛肉を意味する。でなければ羊肉だ。豚肉や鶏肉は常識では肉に入らない。肉は、すべて炭焼きか特殊なオーブンでのあぶり焼きで、ステーキは脂身か赤みの中に溶け込むように長時間かけて焼く。口に入れると、とけてしまいそうに軟らかい。パリージャの珍味は、特別注文の牛の睾丸である。
軍隊のないコスタリカの話がもっとも興味をひきます。
 軍がなければ、外交に攻撃性がなくなる。他国からも警戒されない。外交が不備でも軍が強いからといった誤った安心感を人民に与えることがなくなる。戦争は起こりえない。軍がなかったから戦争にならなかった。軍がなければ、仮想敵国がなくなり、他国の軍縮を促すことになる。武器生産国から武器禁輸の圧力をかけられなくなる。武器が手元にあれば使いたくなるだろう。なければ使えないし、使わない。武器よ、さらばだ。
 軍隊を廃止した最大の利点は、国の富を社会開発にまわせること。教育や福祉にまわせる。
 軍はクーデターの道具だから、軍がなければ、軍事独裁はありえない。
 軍という武装した政治的圧力団体が消えれば文民社会だけになり、真の対話が成り立つ。社会正義の理念をもとに合意が生まれ、これが政策になる。平和教育が説得力をもつ。軍があれば、平和教育は鈍る。
 国内総生産(GDP)の10.7%を教育と保健にまわし、政府の存在価値を示している。兵士ゼロの社会では、人民の生活が良くなる。一人あたりGDPは、他の中米諸国の2倍以上で、非識字率は4%と最低になっている。
 平和ボケって非難されることの多い日本ですが、コスタリカの話って実に説明力がありますよね。
 キューバにいたチェ・ゲバラが、なぜ今もって世界中で抜群の人気を誇っているのでしょうか? 著者の考えは、次のとおりです。死後40年もチェはなぜ、これほどまでに人気があるのか。答えは、正義に欠ける現代社会が、いぜんとして、いや、ますます正義の実現のために不正義と戦い抵抗する象徴であるチェを理想的価値の体現者として必要としているということだろう。
 最近にもチェ・ゲバラを主人公とする映画が出来て、みましたが、それほど現代社会には不正義が目に見える形ではびこっているのですよね・・・・。
ベネズエラのチャベス大統領は新しい社会主義をめざしています。明らかに反米主義です。そして、この本は、その陰の面も指摘しています。
 カラカスをはじめ、都市部では凶悪犯罪が激発し、政官界では国際原油価格の高騰で入る、潤沢な「あぶく銭」をかすめとる腐敗が蔓延している。巷での凶悪犯罪と当局者の腐敗は、明らかに社会を劣化させている。これでは革命基盤まで腐食してしまわないか心配になってしまう・・・・。
 南アメリカの歴史とその断面を知ることの出来る本です。
 
(2010年5月刊。1905円+税)
 フランス旅行の楽しみは何ですかと訊かれ、私はすぐに美味しい料理が食べられることです、と答えました。農業国フランスは、食を大切にしています。食材も味付け、盛り付けも本当に心が配られていて、美味しいのです。人生を大切にするということは食を大切にすることなんだなと実感させられます。
 リヨンのホテルからタクシー20分で(30ユーロ)ポール・ボキューズに行ってきました。三つ星レストランとして、世界に名高いところです。食事中にマダムが挨拶にまわってきました。
 ここでは、コース料理ではなく(食べきれないのを心配して)、クネルとリ・ド・ヴォーを注文しました。クネルは白身魚のすり身ゆでたもので、はんぺんに似た食感です。リ・ド・ヴォーは仔牛の胸腺肉で、少しとろっとした肉です。ワインは少しだけはりこんでヴォーネ・ロマネの赤にしました。そしてデザートはスフレにしました。いやあ、さすがに実に美味しかったですよ。

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