弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年8月13日

三池炭鉱遺産

社会

 著者 高木 尚雄、 弦書房 出版 
 
 三池炭鉱にあって、今もわずかに遺跡の残る万田坑(荒尾市)と宮原坑(大牟田市)の古い写真と今の写真が解説つきで紹介されています。
 私自身は、ここにうつっている炭住街のおかげで大学まで進学できたようなものですので、単になつかしいというより、ありがたい存在だったという感謝の念が先に立ちます。
 私の実家は、私が小学1年生のときに当時47歳の父が脱サラを図って、炭鉱で働く人々などを対象とする小売り酒屋を始めたのでした。
 私自身の記憶にはないのですが、メーデーの日などは、店の前をゾロゾロゾロと会場まで歩いていく参加者が切れ目なく続くので、母はびっくり仰天してしまったといいます。当時、大牟田市は人口22万人になろうとしていました。
 私も一度だけ炭鉱に入ったことがあります。坑道は有明海の海底深い地底にあり、真っ暗闇です。マンベルトというむき出しのベルトコンベアーに乗って真っ暗く、不気味な坑道を一時間ほどかけて採炭現場にたどり着きました。
いろんな職業がありますが、採炭現場ほど危険な職場はないのではないでしょうか。ともかく危険きわまりありません。いつガスが噴出してくるか分からない。いつ岩盤がおちてくるか、坑道の底がふくれ上がってくるか、まるで予測のつかない危険と毎日背中あわせの仕事です。ともかく、すべてが真っ暗闇の世界です。そして粉じんがたちこめているという最悪の職場環境でした。
 まだ、有明海の海底には大量の石炭が眠っているということです。でも、そこで働く人間の生命、健康の安全を考えたら、正直なところ、とても炭鉱を再開すべきだという気にはなれません。
なつかしい炭鉱社宅は、映画『フラ・ガール』にもCGで再現されていました。大牟田にせめて一画くらいも残してほしかったと思います。貴重な写真集です。
(2010年4月刊。1900円+税)

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