弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年7月29日

ブラック・トライアングル

司法

著者:谷 清司、出版社:幻冬舎

 新聞に大きな広告がのっていました。交通事故の被害者が保険会社、国、そして裁判所から切り捨てられている衝撃の告発。そんなショッキングなタイトルの本です。それでは、早速、読まねばなるまい。そう思って読みはじめたのです。
 タイトルの衝撃度に反して、しごくもっともな主張で貫かれています。少なくとも、交通事故の被害者代理人として損保会社と毎日のように交渉し、今も裁判を担当する弁護士として、まったく同感だというところが多々ありました。損保会社は、交通事故被害者を泣かせて不当にもうけているというのが私の実感です。
 ところが、残念ながら、交通事故の被害者・遺族は弁護士に依頼せず、ましてや裁判なんてとんでもないという人がほとんどだというのが悲しき現実です。弁護士に頼んだらいくらかかるか分からず不安だ。裁判なんて、何年もかかるので耐えられないと思い込んでしまうのです。著者も、ここらあたりをなんとかしようと頑張っています。
 現在、日本では1年間に80万件の交通事故が発生している。死亡者も、ひところよりは減ったとはいえ、5千人に近い。交通事故の被害者にとって、保険会社、自賠責システムを担う国、そして裁判所の三つが中心の担い手となる。しかし、これらが本当に被害者の保護・救済にあたっているかというと、残念ながら、そうとは言えない。
 保険会社は被害者の入院している病院に対して電話攻勢をかけ、早々と退院せざるをえないように仕向ける。これは交通事故の二次被害というしかない。医師は保険会社からいろいろ言われると、面倒くさくなって、いわれるがままに症状固定の判断をしがちである。
 保険会社は被害者から、症状照会の同意書をとる。これが保険会社にとって、被害者の治療に介入する「免罪符」になっている。
 ある裁判官が、「痛みをこらえて頑張って働く誠実な被害者」という言い方をしていた。これは、裏を返すと、「痛みに耐えきれずに休んで働かないのは不誠実な被害者だ」という認識だということである。うへーっ、それはないでしょう・・・。
 後遺障害の等級認定にあたる損害保険料率算出機構の理事には、民間の損保会社の社長がずらりと顔をそろえている。むむむ、そうなんですか。ちょっと考えものですよね。
 ムチ打ち症については、医学的に統一された確固とした診断名は今もって存在しない。その定義と治療法は、いずれも決定的なものはない。
 裁判所は、保険会社の方を向き、保険会社との調整を図っているのではないかとさえ疑われる。裁判所は、いつも保険会社と同じ論法で被害者に対する。
 この本には、裁判所でそのまま通用する青本や赤本というものがあって、保険会社の呈示する金額はそれらの本で示されている水準の良くて7割、悪くて5割というレベルであることの紹介がありません。その点は、残念でした。それはともかくとして、交通事故による損害賠償請求の交渉と裁判について、基本的な問題点が分かり易く、よくまとめられていると思いました。
(2010年5月刊。1200円+税)

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