弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年6月24日

インビクタス

世界(アフリカ)

 著者 ジョン・カーリン 、NHK出版 
 
  映画を見損なってしまったので、せめて原作本でも読もうと思って手にとりました。いつものように列車のなかで読みはじめると、いやあ実に面白い。あまりに面白くて、目的地にいつもより早く着き過ぎたとJRに文句の一つも言いたくなったほどです。
1995年に南アフリカで実際にあった出来事です。ラグビーワールドカップで、南アフリカチームが世界の強豪を相手に互角に戦い、ついに優勝の栄冠を勝ちとったのです。
 この本は、それに至るまでの南アフリカでの反アパルトヘイトの戦い、そしてネルソン・マンデラの不屈の行動を実によく紹介しています。本を読み、感動を味わう醍醐味をじわりじんわり、たっぷり味わうことができました。
 南アフリカでサッカーのワールドカップが開催されます。あんな危険な土地にどんな物好きが出かけるのかと冷ややかにみていましたが、そんな傍観者であってはいけないとも思わず反省させられました。平和も、たたかってこそ、努力して手に入れることが出来るものなのですよね。もちろん、これは、平和を手に入れるために、本物の銃を取れということではありません。もっと知恵を働かせよ、ということです。
マンデラは、1964年、ケープタウン沖に浮かぶロベン島の刑務所に入れられてから、18年間、小さな独房を離れることが許されなかった。その部屋で、マンデラは毎朝1時間、その場かけ足をした。1990年、71歳で釈放されてからは、朝4時半に起床したあと1時間歩いた。すごいことですよね、これって・・・・。
マンデラは刑務所に入って2年間、アフリカーンス語を学んだ。南ア白人の言葉だ。マンデラは、白人看守たちの心を溶かした。その鍵は、敬意、あたりまえの敬意にある。
看守の多くが残酷なのは組織のせいだ。心の底をのぞけば、看守だって弱い人間なのだ。
マンデラは、南アのボタ政権による一般黒人の扱いがひどくなるなかで、独房を出され、ついには広々とした一軒家に住むことを許されるようになった。
ボタは、マンデラに最大限の敬意を表した。その一方で、ボタの了解を得て組織された軍の暗殺隊と警察が、国にとってとりわけ危険とみられる活動家を次々に消していった。 
マンデラは1990年2月、晴れて出所した。そのとき、自分は復讐心を抱いて刑務所から出てきたのではないという強いメッセージを発した。
そうなんです。ここがマンデラの偉いところです。血で血を洗う復讐戦がいまにも始まると心配した多くの白人の心をマンデラはぐっとつかみました。
頭に訴えてはいけない。心に訴えることだ。マンデラは言った。
そして、ほとんど白人ばかりのラグビーチームに対して、きみたちは南アフリカを代表している、祖国に貢献し、国民をひとつにするまたとない機会だと、強く訴えかけたのでした。
この試合の展開はすごいものです。ぜひ映像でたしかめたいと改めて思いました。昨日までお互いを敵とみて殺しあっていた黒人と白人が平和に住める国に作り変えるためには、努力が必要だ。それも並はずれた努力をしないといけない。そのことを、実感をもって伝えてくれる感動の書です。読んで絶対に損をしない本です。一読をおすすめします。
 
(2009年12月刊。2000円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー