弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年6月 2日

グリーン・ゾーン

アメリカ


著者 ラジブ・チャンドラセカラン、 出版 集英社インターナショナル

 グリーン・ゾーン内では、食べ物のすべて、ホットドック用のソーセージを茹でる水まで、イラク国外の指定業者から調達するべしというアメリカ政府の規則がある。
 そこでの料理は、みんなが故郷にいるような気持ちになれる者でないといけない。その故郷とは、アメリカ南部を指す。
 共和国宮殿の中ではワシントンの連邦政府庁舎と同じ規則が適用されている。誰もが身分証明書用のバッジをつけ、天井の高い大広間では行儀よくすることが求められている。
 グリーンゾーンの外に出るには、最低でも自動車を2台連ねなくてはならず、しかも、それぞれM16ライフルか、それ以上に強力な武器を携行することになっている。
 ブレマー総督がグリーンゾーンを出るときには、2台の多目的装甲車が先導する。片方の屋根には50口径の機関銃が据え付けられ、もう片方は手榴弾発射装置を載せている。それと同じ武装の装甲車のペアが後方を固めている。4台の装甲車のすべてに、M16ライフルと9ミリ拳銃で武装した兵士が4人ずつ乗っている。4台の装甲車に前後を挟まれて縦隊走行する3台のGMCサバーバンが厳重な警護という分厚い甲羅の、いわば「中身」だ。
 イヤホンを耳に挿し、M4自働ライフルを抱え、胴体を覆うケヴラー社製の防弾チョッキは、カラシニコフの銃弾も跳ね返すセラミック補強板入りである。彼らは全員、階軍特殊部隊SEALのOBで、民間警備会社ブラックウォーター社の職員だ。
 ブレマー総督の乗るサバーバンは、窓は2センチ近い暑さの防弾ガラスで、ドアはRPG弾の攻撃を受けても大丈夫のように鋼鉄の板で補強してある。CPA職員を集めるときには、ブッシュ大統領と共和党に対する忠誠心が重視された。
ブレマー総督を護衛する傭兵は、1日1000ドルの報酬を受け取る。

 バクダッド市内では何百台ものパトカーが盗まれ、個人タクシーに転用されていた。
 戦争終結直後、当時のバクダッドの恐怖と無秩序は、宝の山だった。
 イラクにおける医療サービスは、長いこと、すべて無料だった。
 イラクの原油埋蔵量は世界2位か3位だが、イラクの製油所の精製能力では、突然倍以上に増えた自動車すべてのガソリンタンクを満たすことはできなかった。
 CPAがイラクへの輸入車の関税をゼロにしたおかげで、ヨーロッパじゅうから安い中古車に流入した。渋滞が慢性化するのは当然だった。
 イラクで選挙を実施するうえで最大の障害は、長いこと国勢調査が実施されていないということ。国勢調査なしでは、各県の人口も把握できず、したがって、議席数の配分も決められないことになる。
 サドル師が指揮する暴動に直面して、イラク全土の警察や政府系の民兵組織があっけなく崩壊したことに、CPAは驚愕した。その数日後、ファルージャでの市街戦で、アメリカ海兵隊を支援するよう命じられた新生イラク軍の大隊が命令に従うどころか反乱を起こしたことに、CPAはまたしても驚いた。
 この2つの事件から、ブレマーによる1日イラク軍の解体命令のあと、新しい警察と軍隊をゼロから作り直すというCPAの戦略の根本的な欠陥が明らかになった。ちなみに大暴動が起きた時点で勤務していた警官9000人のうち、6500人が訓練を受けていなかった。また、警察にも民兵4万人の市民防衛隊にも十分な装備を支給していなかった。
 「ファルージャ旅団」と名付けられた旧イラク軍人部隊の投入は大失敗に終わった。彼らは、アメリカ海兵隊の配った砂漠戦用の迷彩服ではなく、旧イラク陸軍の戦闘服を着用した。そして、反乱軍と対決するどころか、元軍人たちは、ファルージャに向かう道の検問所に陣取るだけだった。いや、やがてそれもやめた。結局、海兵隊が「ファルージャ旅団」に渡したカラシニコフ機関銃800挺、ピックアップトラック27台、無線機50台は、いつのまにか反乱軍の手に渡っていた。
 アメリカによるイラク占領の実に寒々とした実体がこれでもか、これでもかと明らかにされています。侵略者アメリカはイラクからすごすごと退散していくしかなかったのです。
 といっても、2009年10月までにイラク駐留外国軍兵士の死者は4667人。そしてイラク人の死者は10万人から60万人にのぼるというのです。これは、9.11の死者3000人をはるかに上回る大変な数字です。事実を直視しなければいけません。
 私は、アメリカ映画『グリーン・ゾーン』も見ましたが、イラクに大量破壊兵器がないことを知りながらイラクへ侵攻させたアメリカ政府の責任はきわめて重大です。おかげで世界平和がまたまた遠のいたように思います。
(2010年2月刊。2000円+税)

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