弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年4月13日

人は愛するに足り、真心は信ずるに足る

世界(アラブ)

著者 中村 哲・澤地 久枝、 出版 岩波書店

 実にタイムリーな、いい本です。たくさんの日本人に読まれることを私からも望みます。私からも、と書いたのは、この本の聞き手である澤地久枝さんが、はじめにのところで、アフガニスタンで一人がんばっている中村哲医師のために何か役に立ちたいと考えて、中村哲医師の本をつくり、その本がよく売れるようにつとめ、その印税によって若干なりとも助けたいと思ったからだと書いていることによります。
 そう言えば、私は最近とんとペシャワール会へのカンパをしていないなと反省させられたことでした。
 この本を読んで、初めて知ったことが3つありました。
 その一は、中村医師は最近、流れ弾に当たって負傷したということです。幸い足のけがですんだそうです。しかも、自分で足のケガを2針縫ったというのです。アメリカ軍の「誤爆」という危険もありますよね。中村医師の無事を改めて祈りたいと思います。
 その二は、有名な作家である火野葦平との関係です。中村医師は火野葦平の甥にあたるのでした。中村医師の母は、火野葦平の妹なのです。
 中村医師の父親は戦前の社会主義者で、刑務所にも入れられたことのある人です。そのことは、前に、この欄で紹介したことがあります。
 火野葦平も一時期はマルクス主義に傾倒していたようです。その後、「転向」して戦記作家として有名になりましたが、戦後、そのことを気に病んで、53歳のとき自決したようです。
 その三は、中村医師のプライバシーにかかわることなので伏せておきます。別に変なことではありません。私生活を世間にさらしたくないというご本人の意向を私も尊重したいと思います。
 日本人は、自分の身は針で刺されても飛び上がるけれど、相手の身体は槍で突いても平気だと言う感覚をしている。これをなくさないとだめだ。
 マドラッサというのは、地域の共同体のカナメである、マドラッサで学ぶ子どものタリバンと政治勢力としてのタイバンは違う。国連も、欧米そして日本も、マドラッサつまりモスクを中心にして行われている学校教育は危険思想の中心だと考えている。しかし、地域のアイデンティティのもとなのである。
 マドラッサがないことには、アフガニスタンの地域共同社会というのは成り立たない。いま、ペシャワール会はマドラッサを建てている。そこで、ペシャワール会はタリバンのシンパじゃないかと偏見を持つ人がいる。しかし、イスラムの過激論者は、農村部には発生する土壌がない。ほとんど都市部である。自分の生きる根拠を失った人々が極端な行動に走りやすい。
 ペシャワール会の職員で、日本人の伊藤さんのほかに5人が亡くなった。弾にあたって死んだ人のほかは、事故死。
 ペシャワール会のかんがい事業は、150人の従業員と数十万人の命を預かっている。
 62歳になって、体力の限界を迎えているが、「身から出たサビ」と考えて、一人、アフガニスタンに止まっている。代役は、そう簡単に見つからないと思う。
 アメリカ軍は、アフガニスタンに十万人派兵すると言う。しかし、襲撃されるから地上移動を極度に制限している。そこで、アフガニスタン国軍を育てようとしている。
 ところが、アフガニスタンという国は、イラクより二枚も三枚も上手である。遠からず、自分が育てたアフガン国軍兵士がアメリカ軍と対決する構図になることが大いにありうる。
 中村さん、ぜひ、安全と健康に気をつけて、今後とも大いに頑張ってください。心より応援しています。
 ぜひ、あなたも、この本を買って読んでください。それが、ペシャワール会を助けるのですから……。
 
(2010年3月刊。1900円+税)

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