弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年2月 9日

大搾取

アメリカ

著者 スティーブン・グリーンハウス、 出版 文芸春秋

 アメリカでは、毎年、4年制の大学に行く資格のあるハイスクール卒業生の40万人以上が、経済的な理由から進学をあきらめている。そのうち、20万人は2年制の短大に行くが、17万人は大学教育をまったく受けない。その結果、10年間で400万人以上のハイスクール卒業生が4年制の大学への入学資格を持ちながら入学できていない。
 法律事務所のなかには、25歳の一流法科大学院出身者の初任給が年16万ドル(1600万円)というところもある。退職者の医療保険給付を削減しながら、その一方で、重役たちに対しては、途方もない高額の退職後医療保険給付をおしみなく与えている。役員のための「補足」年金制度を別に設け、しばしば平均的従業員の賃金の40倍という年金を与えている。
 多くの企業の取締役会では、CEOの友人が役員報酬決定委員会の委員におさまり、年金をCEOの報酬を増やす手口の一つとみなしている。
 アメリカ人材派遣協会によれば、1982年に98万人だった派遣労働者は今日では300万人にまでふくれあがっている。マイクロソフトのような一流の巨大企業でさえ、派遣社員は全従業員の20%を超える。
 人材派遣業は、1975年の年商10億ドルから、今や720億ドル産業へと急成長した。今やアメリカの臨時雇用労働者は800万人に達する。正規雇用労働者の64%が、雇用主の提供する医療保険に入っているが、派遣労働者は9%しか入っていない。
 ウォルマートが医療保険を提供しているのは、従業員の50%にすぎない。
 ウォルマートが地域に参入してくると、その地域の賃金水準が低くなる。
 ウォルマートの経営者だったサム・ウォルトンは、合計資産が800億ドルを超え、世界一の富豪であり、その相続人が年に30億ドルを寄付してウォルマートの従業員のためにすばらしい医療保険制度をつくるくらい、わけもないはずだ。
ホントですね。でも、決してそんなことしないんですよね。金持ちはケチですから。
 労働組合に加入している労働者のほうが間違いなく経済的に優遇されている。組合のおかげで労働者の賃金は平均20%引き上げられ、医療保険その他の福利厚生を加えれば、総収入で28%も上がっている。組合に加盟している工場は、労働者一人当たりの生産性も高い。
 アメリカ人が今ほど借金まみれになったことは、かつてなかった。
 底辺から5分の2の世帯では、4分の1近くが月の収入の少なくとも40%を借金返済に充てている。まじめに働けば、その報いとしてまともな暮らしが送れる。日々、正直に働けば、家族に十分な衣食住を与えられるというアメリカの約束は、破られてしまった。
 社会は、労働者や労働者が抱えている問題について、もっと関心を払わなければならない。見えないことが無視につながり、逆に関心は尊重につながる。
 日本は、アメリカ社会のようになってはいけない、つくづくそのように思わせる本です。
 
(2009年6月刊。2095円+税)

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