弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年2月 3日

山田洋次

社会

著者 新田 匡央、 出版 ダイヤモンド社

 映画『おとうと』を見ました。世間から鼻つまみ者にされている弟を姉が最後まで面倒みるストーリーです。笑いながらも涙を流してしまいました。すごいものです。山田洋次監督の技のすごさに、今さらながら感嘆しました。『母べえ』と同じく、心が洗われ、すっきりした思いで雨のなか帰路につきました。
 この映画には「みどりのいえ」というホスピスが登場します。ほとんどボランティアで運営されている施設のようです。私は申し訳ないことに知りませんでした。こんな施設が存在すること、そして、それを大勢のボランティア・スタッフが支えていることは、もっと世の中に知られていいことだと思いました。その点でも、山田監督はすごいと思いますし、この映画を見る意味があります。ぜひ、みなさん映画館に足を運んで見てください。
 せめて映画館に入る時くらい、このむごい世の定めを忘れたい、と観客は願っている。そんな思いに応える映画をつくるためには、スタッフは皆仲良くなければいけない。仕事を楽しくしなければならない。
 山田監督の映画作りのときには、出演を予定していない人もふくめて、みんなで芝居を見て、役者を励まそうと呼び掛けられる。出演しない人が、外でタバコを吸って一服しているということはない。
 山田監督は、脚本に描かれたことだけを撮影すれば事足りるという姿勢に与しない。
 山田監督の指示どおりにスタッフが動くことを、山田洋次は嫌う。
 監督から言われたとおりにはするな。いや、だったら、こうしたほうがいいんじゃないかと提案すべきなんだ。山田洋次は提案者を待っている。ただし、悩みに悩んだ提案者だ。単に、「いまどきの若者はそんなことは言わない」と批判するのでは足りない。山田洋次はそれでは絶対に納得しない。なぜ言われないのか、どうして昔のような言い方がいけないのか。現在の社会はどういう状況にあるのか、そのなかで若者の生態はどうなっているのか。そして、観客が何を求め、観客に何を伝えるのか。理由とともに具体的な提案をすれば、山田洋次は決して否定しない。採用しなくても、なぜ提案を採用しないのか、必ず考える。
 映画の成否はシナリオの出来が6割を占める。次いで俳優のキャスティングで、これが3割の重要性を持つ。だから映画監督のできることは実は微々たる割合しかない。
 ぼくたちは全部ウソをついている。これが映画の極意。何のためにウソをつくか。映画を見る人達も騙されようと思って騙されている。でも、上手く騙してくれないと怒る。ありえないウソだといって……。
 より真実を描くためにウソをついている人だ。
 これは山田洋次の言葉です。なるほど、そうなんですよね。
 著者はこの本が初めての単行本だということですが、映画『おとうと』の出来上がる過程をよくとらえています。凄い技を持っていると感嘆・感激・感謝します。これからも大いにがんばってください。
 
(2010年1月刊。1500円+税)

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