弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年2月 1日

つぎはぎだらけの脳と心

著者 デイビッド・J・リンデン、 出版 インターシフト

  人間の脳にはすごく関心があります。人間ってなんだろう、心はハート(心臓)にあるのか、脳にあるのかなど、知りたいことだらけです。
 脳の設計は、どう見ても洗練などされていない。寄せ集め、間に合わせの産物に過ぎない。にもかかわらず、非常に高度な機能を多く持ちえている。機能は素晴らしいが、設計はそうではない。脳やその構成部品の設計は、無計画で非効率で問題の多いものだ。しかし、だからこそ人間が今のようになったという側面がある。我々が日頃抱く感情、知覚、我々の取る行動などは、かなりの部分、脳が非効率なつくりになっていることから生じている。脳は、あらゆる種類の問題に対応する「問題解決機械」だが、そのつくりは何億年という進化の歴史のなかで生じた種々の問題に「その場しのぎ」で対応してきた痕跡を、すべて、ほぼそのまま残している。そのことが人間ならではの特徴を生み出している。
 海馬には、事実や出来事に関する記憶を貯蔵するという独自の役割がある。海馬に貯蔵された記憶は、1~2年くらいの間、海馬にとどまった後、他の組織に移される。
 軸策末端と樹状突起のわずかな隙間は、塩水で満たされており、「シナプス間隙」と呼ばれる。このシナプス間隙を5000個並べても、ようやく髪の毛の太さくらいしかない。シナプス小胞から放出された神経伝達物質が、シナプス間隙を通って渡されることで、信号が隣のニューロンに伝えられる。
 各ニューロンが対応するシナプスの数は、5000ほど(0~2万の範囲)。ニューロンごとに5000のシナプスが存在し、脳に1000億のニューロンが存在するとすれば、概算で、なんと500兆のシナプスが存在することになる。即効性の神経伝達物質は、何らかの情報を運ぶのに使われ、遅効性の神経伝達物質は、情報が運ばれる環境設定をするのに使われる。一つのニューロンが1秒間に発生させることのできるスパイクは、最大でも400回。スパイクの伝達速度は、せいぜい時速150キロメートル。
 個々には性能が悪いとはいえ、脳にはプロセッサが1000億も集まっている。しかも、なんと500兆ものシナプスによって相互に接続されている。多数のニューロンが同時に処理し、連携することで、さまざまな仕事をこなしている。脳は非常に性能の悪いプロセッサが多数集まり、相互に協力しあって機能することで、驚異的な仕事を成し遂げるコンピュータなのである。うへーっ、そ、そうなんですね……。
 人間の遺伝子は、その70%までが脳を作ることに関与している。人間は1万6000の遺伝子で、1000億個のニューロンをつくっている。遺伝子は、個々のニューロンを、具体的に、どのニューロンに接続するかまで逐一指示したりはしない。
 人間の脳が高度な処理をするためには、多数のニューロンを複雑に相互接続せざるをえない。個々のニューロンは、状態、信頼性が低いからだ。脳が大きくなると、産道をとおれなくなる。そして、シナプスの配線の仕方をあらかじめ遺伝子に記録するのが難しくなる。500兆もあるシナプスを、どのように相互接続するかを逐一記録していたら、大変な情報量になってしまう。このため、遺伝子は脳の配線をおおまかにだけ決めるようにするしかない。そして、本格的に脳を成長させ、シナプスを形成するのを、誕生後まで遅らせるようにする。そうすれば、胎児の頭が小さくなり、産道をとおりぬけられるようになる。脳の細かい配線は、感覚器から得られる情報にもとづいて行う。
 記憶の書き換えは、驚くほど簡単に起こる。書き換えは、過去についての記憶を現在の状況に合うように歪めてしまうこと。子どもが自発的に話してきたときには、それは本当であることが多い。しかし、そうするだけの社会的誘因さえあれば、子どもは嘘の証言をする。子どもは嘘をつかないというのは、事実に反する。
 脳のことを図解しながら、かなり分かりやすく説明してくれる本です。

(2009年9月刊。2200円+税)

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