弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年1月 9日

ネット評判社会

社会

著者 山岸 俊男・吉開 範章、 出版 NTT出版

 インターネットを利用した取引詐欺が増えている。
 アメリカの2006年の統計によると、利用者が詐欺にあったり、IDが盗まれたという事件は、67万件あまり。その3分の1がクレジットカードや運転免許証のIDを盗まれて悪用されたというもの(25万件近い)。インターネット関連の詐欺やID盗難は20万件ほどで、全体の3割に近い。ネット詐欺は、2000年に1万件だったのが、2003年に10万件をこえ、2005年には23万件をこえた。詐欺の中でもっとも多いのは、オークションに関する詐欺で、全体の63%近い。
日本におけるインターネットの不正アクセスと詐欺も増えていて、2006年上期だけで1802件が検挙された。そのうち733件が詐欺で、4割を占める。
 インターネットをつかった詐欺の9割近くがネットオークションに絡んでいる。
 日本のインターネットを利用する人口7270万人の4.7%が何らかのオンライン詐欺にあっている。その被害総額は1304億円にのぼる。1件あたりの被害額は、スパイウェアによる不正利用が9万余円で高く、次にオークション詐欺の5万円ほど。
 日本におけるオークションは2006年1~9月までの取引総額5104億円に対して、詐欺被害者に支払った補償金は4億4400万円にすぎない。わずか1.0%以下である。これは理論的な予測より、実際の不正行為ははるかに少ない。うむむ、これって、やっぱり少ないとみるべきなんでしょうかね……。
 ネット上の評判には、追い出し作用だけでなく、呼び込み作用もある。
 11世紀の地中海貿易で活躍したユダヤ商人たちを、マグリブ商人という。マグリブ商人たちは、エージェントを使って地中海貿易にたずさわり、そこから大きな利益を得ていた。エージェントの不正を防ぐため、マグリブ商人たちは自分たちの仲間しかエージェントとして雇わない、裏切ったエージェントの評判を仲間内で広げ、そんなことをした人間はエージェントとして雇わない。マグリブ商人たちは、集団を閉ざしておいて、その中で評判を回すことで不正直なことをした連中を仲間から追い出すことでエージェント問題を解決した。
 ここで肝心なのは、集団を閉ざしておくということ。
 同じようなことを江戸時代の商人がしていた。株仲間である。株仲間は、取引を独占する状態が存在することで、公権力からの制約がなくても、自分たち自身で不正行為に対する制裁を加えることができるようにしていた。
マグリブ商人も江戸時代の商人も、公的な法制度による保護を得られない状態で、情報の非対称性問題に対処する必要性に迫られ、解決していた。
 私の依頼者の一人がネットオークションを利用していますが、ともかく時間にしばられ、夜中までの仕事の割には残業手当が出るわけでもなく、大変きつくて割の合わない仕事だとこぼしていました。
 ネットオークションがこんなにやられているとは驚きです。でも私は、やっぱり商品は手にとって眺めて決めたいと考えています。
 
 正月明けに恒例の人間ドッグ(1泊2日)に入りました。日頃読めなかったツンドクの分厚い本を持参します。今回は7冊持って行って、全部を読みとおすことができて大満足でした。
 私が人間ドッグに入るようになったのは、40歳になったときのことですので、もう20年になります。医学技術の進歩を体感しています。たとえば、胃カメラです。その前はバリウムを飲んでいましたが、これは糞づまりして苦しいものでした。胃カメラも、初めのうちは死ぬかと思うほど苦しいものでしたが、今は少しばかりの苦痛で済みます。もっとも、まだ鼻から入れるのは利用していません。眼底カメラにしても、今ではフラッシュをあてられて何も見えなくなるというものではなくなりました。
 そして、一泊するのも、病院から今では提携ホテルに変わり、広々とした大浴場に夜と朝、入ることができます。
 なんのことはない、身長、体重、腹囲測定が一番の心配です。身長は年齢とともに縮んでいきます。体重・腹囲はメタボ度の問題があります。今回は、体重が前より少し増えてしまいましたが、さらに重大なのは腹囲が2センチも増えてしまったことです。せっかく減らした体重なのに、またこのところ増加傾向にあり、しかも、腹周りは無用の脂肪がついてしまったというわけです。それでも、心の優しい看護師さんから、この程度の軽肥満のほうが一番長生きできるそうですと慰められました。
 そうなんですよね。人間(ひと)は励ましと慰めあって支えあいながら生きていくものなんです。
 人間ドッグの楽しみは、本が読めることと、美味しい食事をいただけることです。いえ、自宅でも美味しくいただいているのですが、平日のお昼に仕事を気にせず、ゆっくりと味わうことができるというのはうれしいことなのです。
 この20年間、毎年2回、1泊2日の人間ドッグを利用しています。最近、利用者が減っているようです。ぜひみなさんも利用してやってください。

(2009年10月刊。1600円+税)

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