弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2010年1月 6日

昭和20年夏、僕は兵士だった

日本史(近代)

著者 梯 久美子、 出版 角川書店

 この本で紹介されている三国連太郎の話には驚きました。彼は大正12年(1932年)生まれで、召集されます。しかし、その前に日本を逃げ出すのです。
 鉄砲を持たされて人を撃つのもいやだし、自分が殺されるのもいやだ。徴兵検査には合格したけれど、入隊するのは何としても免れたかった。それで、とにかく逃げよう。逃げるんなら、大陸がいいんじゃないかと、中国にわたり、朝鮮・釜山に行き、また日本に舞い戻ってきた。そして入隊通知が実家に来ているのを知り、九州・唐津へ逃げ、そこで特高警察に捕まった。
 刑務所には入られず、すぐに入隊させられて中国戦線の戦地へ送られた。入院したりしているうちに幸いにも終戦を迎えて日本に戻ってきた。
戦争の中では美しい人間も美しい出来事も一度も見なかった。
 戦争で死ななかったことより、戦後、いろいろなことを偽って生きてきたことの方に負い目がある。人を利用し、便乗し、嘘をつき、そんなふうに生きてきた。
 俳優になってロケで地方に行くことがあるが、昔の自分を知っていそうな所に行くのは怖い。正直、今でもそんなところがある。
 こんな自分の体験を率直に語るのですから、やはり正直な人だと私は思います……。
 別の人の話です。レイテ沖海戦で戦艦に乗っていた人です。
 陸の戦いでは寝泊りしている場所と戦場は普通は別である。生活の場を離れて出陣していくわけだ。しかし、海の戦いでは、そこで眠り、飯を食った場所に何時間か後には遺体が散乱し、負傷者が横たわっているという状況になる。生の営みと死とが、同時にそこにある。このレイテ沖海戦で、まさにそんな体験をした。そうなんですね、海上では逃げるところがありません。
 もう一つ。これも船に乗っていて、アメリカ軍に沈没させられた人の話です。
 もう駄目だと思ったとき、ズタズタに切れたクレーンのワイヤーロープが何本もぶらさがっているのに気がついた。思わず、そのうちの一本にとびついた。うまく捕まることができると、脚にだれかがすがりついてきた。その重さでずるずると下に落ちて行きそうになる。そのまま落ちれば、下は燃えさかる船底だ。そこで、しがみついてくる者をけり落とし、ふりほどいた。必死だった。芥川龍之介の『蜘蛛の糸』と同じである。誰だか分らない兵隊をけり落として、反動をつけて甲板によじ登り、そこから海に飛び込んだ。けり落とされた兵隊は死んだはずだ。人を殺してしまった……。
 船がやられたら、泳いだらいけない。船が沈むときには、いろんなものが浮くから、それにつかまること。つかまって、早く船から離れる。
 いやはや、すさまじい戦争のむごさを改めて実感させられました。戦争は絶対にいやです。
 
(2009年9月刊。1700円+税)

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