弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年12月28日

トイレの話をしよう

社会

著者 ローズ・ジョージ、 出版 NHK出版

 イギリスの若い女性による、トイレに関するまじめな本です。とても勉強になりました。ともかく、毎日お世話になるトイレですが、世界を見渡すと、家にトイレがない家庭のほうが圧倒的に多いのですね。日本のホームレスがなんとかやっていけるのは、日本では公衆トイレがかなりいきわたっているからだとも言われています。世界の都市の大多数が公衆トイレをもっていません。
 これを読んで、20年以上も前にニューヨークに行った時のことを思い出しました。弁護士のツアーで、市内を見学してまわったのですが、現地のツアーコンダクター(若い日本人男性でした)に、手を挙げて「トイレに行きたいんですが……」と言うと、すごい剣幕で怒られてしまいました。「アメリカに来て、トイレがどこにでもあるなんて思わないでください」。うへーっ、そ、そうなんだ……と慌てました。でも、仕方ないですよね、行きたくなったのだから……。ガイド氏は、なんとか近くのビルにトイレを見つけて案内してくれました。そのときトイレに行きたかったのは私だけではなかったようで、何人もの人がトイレにいって利用していました。
 日本なら、トイレはビルのあちこちにあるわけですが、アメリカでは、ビルの中にあるトイレであってもトイレに入るドアには安全上の理由からカギがかかっていることが多いのですよね。日本のように気軽に利用することはできません。
 中国だったか、ヨーロッパだったか、おそらくその両方だったと思いますが、デパートのなかに入ってトイレに行こうとして、なかなか見つからずに焦ったこともありました。日本だったら、トイレはほとんど各階にあり、絵入りの表示・案内があって、すぐに場所がわかります。ところが、デパートのなかのどこにあるのか、さっぱりわかりません。ともかく、日本と違って絶対数が足りないのです。
 トイレから人間の尊厳を回復しようというスローガンが紹介されています。まことにもっともな訴えです。その意味では、日本は世界の最先端を行っているのでしょうね。我が家にもあり、毎日愛用しているウォシュレットです。終わったあと、温水でお尻を洗ってくれる爽快感は何とも言えません。
 日本は、世界でもっとも進歩した驚くようなトイレを製造している。TOTOの総売上高は42億ドル。従業員2万人、国内に7つの工場を持ち、日本のトイレ市場の3分の2を独占している。INAXは市場シェア30%にすぎない。
 ノズルの発射角度がINAXは70度、TOTOは43度。この27度の違いは……。
 ところが、日本の革命が世界には驚くほど広がっていない。なぜか?
地球上の26億人は満足な衛生設備をもたずに暮らしている。下痢が原因で15秒に1人が死亡している。下痢の90%は糞便で汚染された食べ物や飲み物によって引き起こされている。1グラムの便は1000万個のウィルス、100万個のバクテリア、1000の寄生虫、そして100の寄生虫の卵を含有している。
 トイレは人間の寿命を延ばす唯一最大の可能性である。衛生設備の向上は、人類の平均寿命を20年も延ばした。
 人は一生のうち3年間をトイレで過ごす。
 人間は平均で1年間に35キロの便と500リットルの尿を排出する。水洗トイレの水が加わると、総量は1万5000リットルにもなる。
 下水道を詰まらせるのは、レストランから出る油だ。
 インドには40万から120万人のトイレ清掃にあたる人々がいる。ダリットと呼ばれる人々は名前まで差別される。ふつうの名前をつけようものなら、それだけで身のほど知らずとして虐待される。ところが、一方ではダリット出身の裁判官や上院議員もいる。といっても、やはりカースト制は健在で、ダリッドはダリッドとして扱われる。マハトマ・ガンジーはそれを非としてたたかった。自らトイレを掃除する姿を公開したほどだ。
 宇宙飛行士の宇宙船内の糞尿始末記まで紹介されています。トイレの問題は依然として今日の世界における最優先課題の一つだということがよく分かる本です。

 
(2009年9月刊。1800円+税)

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