弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2009年11月 3日

棄民たちの戦場

日本史(近代)

著者 橋本 明、 出版 新潮社

 第二次大戦の末期、アメリカがナチス・ドイツを追い詰めていた。ところが、ドイツ軍の巧妙な反撃にあって、アメリカ軍の一部隊がフランスの山地で敵中に孤立してしまった。
 包囲されたテキサス大隊の兵211人を救出するため、日系アメリカ兵800人がフランスの山地、氷雨に煙るボージュで死んでいった。
 第二次大戦が始まると、日系アメリカ人はアメリカ政府によって、敵性国の人間だとして自由を失い、砂漠のなかの収容所に強制的に収容された。カリフォルニア州だけで10万人近く。ハワイやオレゴンなどをふくめると、全米で12万6000人もの日系アメリカ人が強制的に収容された。このとき、同じ枢軸国であっても、ドイツ系やイタリア系には同じような措置はとられていない。黄色い日本人は差別されたのですね。
 その強制収容所から日系アメリカ人の兵隊が誕生した。そして、この日系アメリカ兵の部隊に名声はいらない。果敢に任務を遂行するキツネ顔の日系人は、埋もれた消耗品に過ぎなかった。独立のコマンドとして差別し、動静を隠す。
 442歩兵連隊2800人。平均背高162センチ。在フランス師団の増強部隊として、欧州戦線のど真ん中に参戦した。第442歩兵連隊戦闘団は、「お釣りを絶対に期待できない」戦闘に首を突っ込んでいった。敵性国民という不当なレッテルと差別をはねのけるために立ち上がったタフガイ集団といえる。
山が山を覆い、森が森を連ねるフランスのボージュ戦域は、第二次世界大戦を通じてもっとも劇的なエピソードをつづる場に変わっていく。後に戦史家は、このテキサス大隊救出作戦を、アメリカ陸軍史上もっとも重要な「十大戦闘」の一つに数え、ペンタゴンの壁に永久表彰画を掲げた。
 テキサス大隊を自らの身を犠牲にして救出していった日系アメリカ兵の活躍ぶりがあますところなく活写されていて、まさに良質の戦争映画をスケールの大きな画面で身近に見ている気になり、手に汗を握ります。第二次大戦に従事した日系アメリカ兵は、総勢二万人を超えたということです。
 フランスに現地には、このときの日系アメリカ兵の活躍をたたえる碑が建っているそうです。感動的な、いい本でした。よくぞ、ここまで掘り起こしたものだと思います。
 
(2009年6月刊。1600円+税)

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